秘密が漏れた話


これは大学生の頃の出来事だ。

県外の大学に行った高校のときの友達が帰省するということで、一人暮らしをしている僕の家に泊まることになった。

久しぶりの帰省になる彼は、近況などいろんな話をしたいようだ。

僕の方も、地元の話、特に高校のときの同級生の話をしたくて仕方なかった。


友達は夕方に来た。

たくさんの荷物と一緒に土産話ももってきた。

荷物を適当に下ろし、さっそく宅飲みが始まる。

今通っている大学の話や、最近見た映画の話などが酒のアテになった。





しばらくすると友達があることに気付いた。


「お前、秘密が漏れてないか?」


え?と口元に手をやると、確かにうっすら秘密が漏れている。


「いけねー、出しっぱなしだった。」


そう言って口をしっかり閉めたのだが、どうも秘密は漏れ続けている。

しかもその量は少しずつ増えていた。


「お前の元カノの愛美がホストに500万……」


「おいおい!秘密、結構漏れてきてないか!?」


「やっべぇ、でも止まんないぞ、これ。あの頃タバコって言ってたけど実はシンナーで……」


「だから秘密どんどん漏れてるって!」


ガチガチに口を閉めているはずなのに、秘密が止まらない。


僕は慌てて冷蔵庫に貼ってある、『秘密のトラブル駆けつけます』と書かれたマグネットの電話番号に連絡をした。


電話口では焦っている僕を察知してか「まず、声帯の栓を閉じてください。」と冷静な声で指示があった。


僕は玄関から出てアパートの階段を降り、言われた通りに声帯の栓を閉じた。

床は秘密浸しになってしまったものの、とりあえずこれで秘密の漏れは止まった。




それから数分で業者が来た。

声帯の栓を閉じており声を出せないので、身振り手振りで早くしてほしい事を伝える。

すると業者は、現状の確認とすると言って、ペンライトで心の中を確認し始めた。

その間、友達には申し訳なかったが、少し外で飲んできてくれるよう頼んだ。




しばらく観察した後、ペンライトの灯りを消して業者はこう言った。


「あーはいはい、わかりました。『モラル』が劣化してますね。」


業者の説明では、『隠し事』が蓄積されて、そのせいでモラルが少しずつ劣化してきた、とのことだった。

経年劣化もするので仕方ない事ではあるらしい。

業者の勧めるまま、隠し事を一旦すべて吐き出した。

大学の教授に土下座をして単位をとったこと、現在進行形で浮気していること、しかもその相手は友達の彼女で、月1回内緒で会っていること。

その他にも次から次へと隠し事を吐き出した。

念のため、劣化したモラルも新しいものに替えてもらった。




ひと通り終えた業者に代金を支払い見送るとき、「お兄さん人が良さそうだから話すけど、実はこの仕事無免許でやってるんです。内緒にしてくださいね。」


そう言ってパタンと扉が閉まった。


ついさっき替えてもらったはずのモラルがパキリと音を立てた。

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