家で大名行列を見た話

あれは僕がまだ小学校低学年だった頃の話だ。


家でテレビゲームをしていたときに、ふと家の中が騒がしい事に気付いた。

それはゲームからの音ではなく、座っているソファの後ろから聞こえてきていた。

振り向くとそこには、大名たちがいた。


大名たちが列をなして「下にー、下にー。」などと言いながら参勤交代していたのだ。


庭ではよく見る光景だったが、まさか家の中で見ることになるとは思っていなかったので、かなり驚いた。


それにしても、江戸でもあるまいし、いったいどこへ続いているのだろうかと、その行列を観察してみることにした。


行列はリビングを通り抜け、台所の横を通り、和室まで続いていた。

そして、その先には弟がいた。

どうやら行列の終着点は弟のお膝元にあったようだった。

まだ幼児の弟が、甘いお菓子をポロポロとこぼしながら食べていたのだ。


「お母さーん!大名が参勤交代してるー!」


僕が母へ伝えると、母はすぐに来てくれた。


母はその光景を見るなり「ぎゃあ!」と飛び上がった。

さすがの母も大名たちには頭があがらない様だった。


けれど、大名に登られている弟をどうにかしなくてはと思ったのだろう。

弟の膝の上の大名たちを手で払い落とすと、台所から手早く砂糖の袋を持ってきて、大名行列の通り道に砂糖の道を作り始めた。

その道は、玄関から庭へと続いていた。


はじめこそ、弟のこぼすお菓子に夢中になっていた大名たちも、砂糖の道に気付くと1匹、また1匹とそちらへ方向転換していった。

そして母の目論見通り、玄関から庭へ列をなして出ていった。




すべての大名が庭へ出ていくのを見届けてから、一体なぜ家の中まで参勤交代してきたのか調べてみた。

すると、午前中に外からリビングへ戻ってきたときに、僕が関所を開けっ放しにしていたことが発覚した。


その日はこっぴどく怒られた。




それからというもの、庭で大名行列を見るたびに、彼らがどこへ向かっているのか観察している。

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