いのちを懸けた日置君の話

僕が小学1年生の頃、日置君という同級生がいた。


日置君は小学1年生でありながら、生粋の賭博師だった。

何にでも『いのち』を賭けていたのだ。


それは友達との会話の中でよく聞かれた。

前日のテレビ番組の内容という、一見成立しなさそうな賭けをしたかと思えば、給食の献立がご飯かパンかという、少し危ない橋を渡る様な賭けをすることもあった。

本当に多方面に喧嘩を売るような形で、とにかく『いのち』を賭けていた。




そんなある日、算数の授業での事だった。

いつものように、先生が黒板に書かれた足し算を指し、「この問題が分かる人、挙手。」と言ったところ、何人もの生徒が手を挙げた。

その中で一際高く手を挙げていたのが日置君だった。


「はい!はいはいはい!」


日置君は相当な自信があったらしく、先生に指名されようと必死にアピールしていた。


日置君の「絶対分かります!」という言葉に、苦笑いしながら先生は指名した。


「……えーと、あれ?分かりません。」


「絶対分かる」と言っていた日置君の口からは、思わぬ答えが出てきた。

この場では、仕方なく他の生徒が答えたのだが、次の問題で事件はおこった。


先ほどの問題同様に、先生が挙手を促したところ、またしても日置君が高々と手を挙げたのだ。

「今度は絶対分かります!」と言っていたが、今度の問題はさっきの問題の応用編であり、普通に考えれば日置君には分からない問題だった。

その事を知っている先生が、他の生徒を指そうとしたとき、日置君の切り札とも言えるあの台詞が飛び出した。


「分かります!いのち賭ける!」


瞬間日置君と先生の目が合う。

そして先生は「本当に分かる?『いのち』賭けるの?」と聞いた。

そして、「もし分からなかったら、『いのち』貰うからね。」と日置君に確認した。


「うん!」


日置君がふたつ返事をしたので先生は渋々指名することにした。


僕たちは内心、「日置君、大丈夫かな」と心配していたが、彼の賭博師としてのプライドもあり、止めることはできなかった。

それにあれだけの自信があるのだから、きっと勝算があるのだと見守ることにした。





「えーっと、やっぱり分かりません!」




元気に答えた日置君。

その時から日置君の『いのち』は先生に預けられたままだ。


先生に一度、「日置君の『いのち』はどうなったんですか?」と聞いたことがある。

先生の話では、洗濯と一緒に物干し竿に吊るしてあるのだそうだ。

風になびく『いのち』には、たまに飼い猫がじゃれようとしているらしい。

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