『信長』をこんがり焼いたときの話

僕は料理をするのが好きだ。

いつから好きかというと、社会人になった頃からだ。

理由は色々ある。

特に『信長』を初めて料理したときの楽しさは、料理に目覚めた要因の1つだ。



その日は仕事で良いことがあり、少し奮発しようとスーパーに立ち寄った。

野菜コーナーと惣菜コーナーを抜け、武将の並んだ一角に信長はいる。

惣菜でも信長が使われているものはある。

ただし、原産国が尾張ではない場合があるので注意が必要だ。

僕は尾張で育った信長にこだわりたかったので、武将コーナーに並んだ信長を手に取った。



家に帰るとさっそく料理を開始した。

パックから信長を取り出し、まな板に横たわらせる。

信長がまな板の上にあがる際には、草履を脱いでもらったほうが好ましい。

脱いだ草履は、家に秀吉がいれば温めてもらうなどすると無駄なく使えてよい。

まな板の上の信長と目が合うのが嫌な人は布巾などで隠すと良い。


横たわらせたら全身に、楽市楽座をまぶす。

両面にしっかりまぶすことで、これが下味になる。


次に桶狭間に入れて室町幕府と一緒によく揉みこむ。

こうすることで信長が柔らかくなる。

揉みこまないとアクの強い信長の味がホトトギスの風味を殺してしまうので、手間をかけよう。


しっかり揉みこんだらいよいよ本能寺の出番だ。

オリーブオイルをたっぷり引いた本能寺に信長を置く。

揉みこみが足りないと睨んでくるかもしれない。

これは所詮最後の強がりなのであまり気にする必要はないかもしれないが、いい気はしない。


本能寺で踊る信長は油跳ねがすごい。

片面に焼き目がついたらひっくり返して反対も焼き目をつける。


そうしたらいよいよ佳境を迎える。

電子レンジの上に光秀を置いて叫ぼう。

「敵は本能寺にあり!」

本能寺にラム酒をかけ一気にフランベする。

信長は能を舞ったら完成だ。


お皿に信長を移し、お好みの香草とホトトギスを添える。

ソースは好みのもので良い。





皿の上の信長に箸を入れる。

スッと切れるほど柔らかくなっている。

口へ運ぶと信長の野望が溢れ出す。

そのまま2口、3口と食べ進める。

しっかり揉みこんだおかげでホトトギスが生きている。

初めて作ったにしては上出来だった。


「仕事頑張った日は信長を焼こう。」


それ以来、自分へのご褒美は『信長の本能寺焼き』にしている。

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