先着1億人に並んだ話
あれは一人暮らしをして間もない頃だった。
近所の商店街で、くじ引きが行われるとのチラシが配られていた。
そのチラシには『先着1億人!豪華景品もあるくじ引き大会!』と書いてあった。
1等は商店街の靴屋『靴のヤマモト』でオーダーメイド靴が作ってもらえる権利だった。
普段よくお世話になっている商店街だったので、日曜日だったこともあり、行ってみることにした。
当日、大勢来るかもしれないと少し早めに家を出ると、アパートの前には既に長蛇の列ができていた。
向かって左側に商店街があるのだが、アパートの前を左から右へ横切るように人が並んでいた。
出発が少し遅かったか、と思いながら、仕方なく商店街とは逆方向へ歩いていくと『最後尾はこちらです』の立て札をもったお兄さんがいた。
そのお兄さんに聞いたところ、前には8705万人ほど並んでいるということだった。
とりあえず最後尾に並び、先頭がいるであろう方向を見た。
11kmくらい先に商店街の名前が書かれたアーチが見える。
ということは先頭はあの辺りだろう。
新作ゲームが出るときはきっとこんな感じなんだろうな、などと思いながらしばらく並んでいた。
5時間くらい並んでいると急にトイレに行きたくなった。
しかし、先頭まであと6500万人くらいだ。
もしトイレに行っている間に順番が来たら大変だ。
僕は何とか我慢することにした。
そして120時間ほどしたら自分の番になった。
順番は思ったより早く来たので、やっぱりトイレに行かなくて正解だった。
くじ引きのガラガラが置いてあるテーブルの後ろには、ポケットティッシュでいっぱいになった文房具屋があった。
おそらくあれはハズレだろう。
ここまで待ったのだから、ポケットティッシュだけもらって帰るわけにはいかない。
何としても良い商品が引きたい、そう念じながらガラガラを回すと、コロンと軽い音をたてて、朱色の玉が出た。
くじ引きを取り仕切っている商店街のおじさんが、カランカランカランと鐘を鳴らした。
「おめでとう!3等だ!」
そう言って手渡されたのは商店街で使えるクーポン券1000円分だった。
1等の靴のオーダーメイドの権利こそ手に入らなかったが、ポケットティッシュじゃなかっただけ良かった。
商店街に来たついでなので、そのクーポン券を使って何か買い物をしようと青果店を覗くと、そこには長蛇の列ができていた。
その他の店にも人、人、人。
もしかして、3等というのは外れに近い賞だったのではないだろうか。
背後からはまた鐘の鳴る音とともに「おめでとう!3等だ!」というおじさんの声が聞こえてきた。
僕はさっき覗いた青果店に、その日85万9000人目の客として入店した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます