たぶん症になった話
あれは大学生の頃の話だ。
その頃の僕は『たぶん症』を患っており、毎年春になると『たぶん』に困っていた。
『たぶん症』は全国的にも患者が多く、みな春にると「たぶん」と言いたくてウズウズするので、「たぶん」と言わないようにマスクは欠かせなかった。
時期が近づくと、ニュースでも「全国的に『たぶん』が飛び散らかしております、たぶん。」と言いながら、『たぶん』が舞う映像が流れる。
これはもはや風物詩と言っても過言ではない。
その年も、テレビドラマで「犯人はあなただ、たぶん。」と言っていたり、教養番組で「このストレッチをすれば必ず体が柔らかくなります、たぶん。」と言っていたり、『たぶん症』が蔓延していた。
僕はその年、例年以上に『たぶん症』に困っていた。
毎年、アレルギー薬を飲んでいたのだが、うっかり飲むのを忘れてしまったのだ。
『たぶん症』のひどい症状が出ており、とにかくすべてに確証が持てなくなっていた。
友達と会話していても、話の端々に「たぶん」と付けてしまい、まるで会話にならなかった。
それでも『たぶん症』に振り回されながら毎日生活していたのだが、そろそろ『たぶん症』のシーズンも終わるだろうかという頃に、学校ではテスト週間にさしかかった。
僕は『たぶん症』の症状に耐えながら、ペンを片手に「たぶん!たぶん!」と連発しながら勉強をした。
どの科目の教科書を開いても「この教科書は、本当に正しい事が書かれているのだろうか。」と思うに至るまで、症状は悪化していた。
たぶん正しかったのだろうが、もしかしたら間違っている可能性も否定できない。
けれど、テスト勉強をするには教科書を読まないわけにはいかなかったので、納得できないまま「まぁ、合ってるよな、たぶん。」と思い込むことにした。
そしてテスト当日、前日遅くまで勉強した甲斐があり、見覚えのある問題が数多く出た。
本来であれば、迷いなくスラスラ解けるはずだった。
しかし、その日は強風が吹き荒れていた。
『たぶん』も風に飛ばされて、いつもより多く飛散していたのだろう。
僕はマスクをしていたにも関わらず、テスト中『たぶん症』の症状が止まらなくなり、「たぶん!たぶん!」と連発した。
もちろん、テストは大失敗に終わった。
答案用紙のすべてに『たぶん』と書き加えてしまったのだ。
ここまで読んでもらって、こんなことを言うのも申し訳ないが、これは記憶だけを頼りに書き起こしたものだ。
だから、事実と異なることもあるかもしれない。
大まかに、こんな感じの出来事だったと思う、たぶん。
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