先輩の第2ボタンが欲しかった話

私が中学生の頃、私の学校では、卒業式の日に『好きな先輩の第2ボタンを貰う』という風習があった。


第2ボタンが貰えると両想いになれるだとか、願いが叶うだとか、色々な言い伝えがあり、当時の女子生徒たちは卒業式で如何にして第2ボタンを貰うかに想いを募らせていた。


当時の私も女子生徒の例に漏れず、意中の先輩の第2ボタンを狙っていた。

ただひとつの問題は、私の意中の先輩が格好良すぎる事だった。


卒業式を終えた先輩に後輩女子生徒が集まる。

私も負けじと先輩の前に立ち「第2ボタンを下さい!」と伝えた。

ところが、私の声は他の女子生徒の声にかき消され、うまく伝わっていないようだった。


「先輩の第2ボタンを下さい!!」


もう一度、大きな声で叫んでみるも、やはり届かない。

それどころか、女子生徒の波に押され、徐々に先輩から離れていくではないか。

一生に一度きりのチャンスをこんな形で手放すわけにはいかなかった。


もう、やるしかない。


手が届かない存在になる前に、やるしかない。


私は腹をくくった。


「えいっ!」


身体を捻りながら、右手を精一杯先輩に伸ばした。



そして、先輩の第2ボタンを、押した。



周りの女子生徒が「あっ」という顔をした。

直後、先輩は動かなくなった。

比喩ではなく、手足どころか目、口、そして呼吸で動く胸まで、ピタリと止まったのだ。

つまり、それはからだの内部にも同様の事が言えるわけで。


第2ボタンからそっと離した私の手には、校章の跡がくっきりついていた。






女子生徒が先輩の第2ボタンを欲しがる理由。

第2ボタンさえ手に入ってしまえば、先輩は結ばれるしかないのだ。

それは人権など度外視の暴力的契約だった。

この出来事で、『第2ボタンが貰えると両想いになれる、願いが叶う』というのが噂や迷信ではなく、本当だったと、身をもって知ることになった。

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