おじいちゃんが校庭に入ってきた話
中学生の頃、席替えで窓際の席になった僕は、3階の教室から外の景色をぼーっと見ていた。
これはそんな時に起きた話だ。
その日も授業をBGMに外を見ていた。
暖かい春の日差しを受けて、ウトウトしかけた時、ふと何かが校庭を横切っていくのが目に入った。
体育の授業はやってないし、何だろうと見ていると、それは僕たちが授業をしている校舎の方に近づいてきた。
おじいちゃんだった。
しかも、それは野良のおじいちゃんではなく、我が家で飼っているおじいちゃんだった。
おじいちゃんが軽快に校庭を走っていた。
普段は小屋で寝ていることが多い、散歩に連れ出しても近所をぐるりとして終わるだけのおじいちゃんが、見方によっては喜んでいるような顔つきで走っていた。
下の階の生徒がワッと騒いだのをきっかけに、僕のいるクラスでも野次馬が窓際に集まってきた。
「どっかのジジイが校庭に入ってきてるぞ!」
人の家のおじいちゃんをジジイ呼ばわりしてきた彼を注意しようと思ったが、それでは僕の家で飼っているおじいちゃんと知られてしまうので、「元気なじいさんだなぁ。」などと濁した。
先生が数人外へ出て、おじいちゃんを追いかけ始めた。
校庭を右へ左へ、砂場へ行ったり鉄棒をスラロームのようにすり抜けたりして、さらにこちらへ近づいて来ている。
まるで追いかけられるのを楽しんでいるようだった。
「あれ、お前の家のおじいちゃんじゃない?」
「バカ言うなよ、あんなヨレヨレの肌着とモモヒキが家のおじいちゃんなわけないだろ。」
「でも、ほら。」
「コウタロー!おーい!」
僕を見つけたおじいちゃんは、僕の名前を呼び、フリフリと激しく手を振っていた。
観念した僕は、手を振っている間に捕らえられたおじいちゃんを見つめていた。
野良のおじいちゃんが校庭に入ってくるのは何度か見たことがあった。
けれど、まさか自分の家のおじいちゃんが校庭に入ってくるとは夢にも思わなかった。
帰宅後、玄関を見ると、いつものように小屋ではおじいちゃんが寝ていた。
前よりも太い首輪でしっかりと繋がれていた。
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