ワカメが増えた話

あれは大学生になって1年が経ったときの話だ。

その頃は、授業以外はアルバイトかパチンコばかりして過ごしていた。

アルバイトで稼いだ分は湯水のように消えていき、自業自得の貧乏生活を送っていた。


そんな折に、友達の1人が「いい案件があるんだけど」と、話を持ちかけてきた。


それは、今度競馬場でおこなわれるレースで確実に儲かる方法がある、というものだった。

ただ、それには出資が足りないのでワカメを貸してほしい、という話だ。


「確実に増やして返すから。」


少し胡散臭い気もしたが、どうせパチンコをするくらいなら賭けてみてもいいかな、となけなしのワカメを友達に渡した。


そして、実際にワカメは増えた。

貧乏学生のなけなしだったので、本当にひとつまみしか渡さなかったのに、お財布から溢れるくらいには増えていた。


どんなレースだったのか聞いたが、それは教えられないと言われたので、話を持ちかけられる度にワカメを友達に渡した。


どんどん増えていくワカメ。

1度に渡すワカメの量も増えていった。

前は夕食のおかずさえままならなかったのが、信じられないくらいに増えた。

お味噌汁、酢の物、サラダ。

使っても使ってもワカメは減らなかった。




このまま永遠に増え続けていったら、働かなくてもいいかな、などと浅はかな夢を見ていたある日、いつものように友達から声がかかった。

もちろんワカメを渡した。

今度増えたら何に使おうか考えながら結果を待っていた。


しかし、友達から連絡は来なかった。

電話をかけても繋がらない。

賭けワカメの量は相当なものだったが、結局、ワカメを持ち逃げされてしまった。




大人になり、ワカメを水につけると増えるのを知ってからは、ワカメ不足には困っていない。

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