墓参りの話


まだ祖母が生きていた頃は、お盆と正月に墓参りへ行っていた。

僕も連れていかれ、一緒に手を合わせていたものである。


霊園に着くと、祖母が木の桶に水を汲み、手伝いがてら僕が祖父の眠る墓まで運ぶ。




そこには祖父が眠っていた。

祖母はひしゃくに水を入れると「そんなに強くなくても」と思うほど力いっぱい祖父にかける。


「なにをゴロゴロしてんだ!この野郎!」


寝転がっていた祖父は、突然顔面に冷水をかけられ飛び起き、それはそれは驚いた顔をした。

何が起こったか理解できないでいる祖父めがけて、祖母はもう1度頭から水をかける。


次に、あっぷあっぷする祖父の顔を持参したタオルでゴシゴシと擦る。

その乾布摩擦のごとき拭き取りは、汚れを落とすというよりも、むしろ摩擦的ダメージを与える役割の方が大きいのではないかと思う。


そして、正月は特にそうだが、冷水をかけられガタガタ震えている祖父にロウソク1本だけの暖をとらせる。

祖父はそのわずかな暖を絶やさないように両手で風避けをつくるように囲う。

祖母はその情けない姿を見てから線香に火をつける。


そして最後に両手に花を持たせる。


「死ぬ前も散々女をはべらせてたよなぁ。」


花を両手に持たされた祖父は『『墓』の下』がだらしなく伸びていた。



祖母から聞いた話によると、祖父はたいそうモテていたそうだ。

それは祖母と結婚しても変わらず、家に帰らない日も少なくなかったとか。

その女癖の悪さから祖母や母を困らせ、結局は酒でからだを壊したときも、見舞いに来たのは周りの女たちだったのだそうだ。



だから祖母は、祖父が死んでから毎年2回、必ず復讐に来ていた。

冷水を頭からぶちまけ、皮膚が切れるほど擦り、ロウソク1本にすがる情けない姿を滑稽だと笑う。




これが祖母の生前の生きがいだった。

祖母が亡くなって祖父と同じ墓に入ることになったとき、「私が墓に入るから、もう花は添えなくていいね。」と言っていた。



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