カップラーメンをつくる訓練の話

小学生の頃、1年に1度だけ、カップラーメンをつくる訓練がおこなわれていた。

他の学校ではどうだったか知らないが、僕の通っていた小学校では決まって、『カップラーメンの日』におこなわれていた。


実際にカップラーメンをつくる機会など訪れないかもしれないが、万が一つくらなければならなかったとしても、パニックにならず落ち着いてつくれるよう訓練が必要とされていた。


カップラーメンをつくる訓練の前日になると、先生たちが校内の点検を始める。

ポットのお湯は充分あるか。

そのお湯は98℃に設定されているか。

予備のカップラーメンはあるか。

それらをしっかり確認した上で、翌日の訓練が始まるのだった。





その年の訓練も、あの音から始まった。


「ぐぅーぐぅーぐぅー」


けたたましい音でお腹の虫が鳴る。

続いて


「お昼です!お昼です!お昼ごはんの時間です!全校生徒は先生の指示に従って、すみやかにカップラーメンをつくりなさい。」


というアナウンスが流れる。

各自、机の横にぶら下げてあるカップラーメンを手にとった。

隣の越野と「お前シーフード好きなんか?」「最近出たチリトマト、大人な味だぜ。」などと小声で話していた。


低学年の頃こそ緊張して泣いてしまう子もいたが、2、3年も経験すれば悪い意味で慣れてしまう。

当時4年生だった僕らも、先生から「しゃべらない!」と怒られた。


各自お湯を入れて蓋をする。

ことのき、『見ない、開けない、すすらない』という標語がある。

みんなが守っていたかは置いておくとして、割と大人になってもこれは頭に残っているのではないだろうか。

おそらく全国的なものだったのだろうと思う。



全員がお湯を入れたのを確認すると、先生は、無事にカップラーメンがつくられたことを報告をしていた。



全クラスの報告が終わると校長先生が話し始めた。


「はい、皆さんお疲れさまでした。先生ね、時間を計っていました。皆さんがつくり終えるまでに4分50秒かかりました!去年やその前は3分でできていましたよ!もう麺がのびのびです!こんなことでは、いざカップラーメンをつくるときに大変なことになりますよ!そもそもカップラーメンの発祥は……」



そんな総括はおよそ15分続き、総括の後、さて食べましょうとなったときには、スープを吸った麺は蓋から溢れ出ていた。

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