マラソン大会で902.195㎞走った話

寒くなると、小学生の頃に開かれていたマラソン大会を思い出す。

特に6年生のときのマラソン大会は記憶に残る大会となった。


当時、僕の通っていた小学校では毎年マラソンコースが違い、その年のゴールは釧路だった。

東京にある僕の小学校からは北の方角がゴールになるのは初めてだったし、いつもより距離が遠かったこともあり、道に迷わないか少し不安があった。

毎年、道を間違える生徒がいたのだ。

それに僕はマラソンが得意なわけでも好きなわけでもなかった。

ただ、ゴールした後にもらえるおしるこを楽しみにするあまり、大会を休むようなことはしなかっただけだ。

なので釧路に無事ゴールできるかという体力の心配もあった。



いざスタートしてみると心配の1つは杞憂に終わった。

生徒が道を間違えないよう、等間隔で先生が立っていたからだ。

その先生たちからは「頑張れー!釧路まであと○○㎞だよー!」とエールを送られた。

そしてもう1つの心配である体力だが、スタート前に風間くんが「一緒に走ろうね。」と誘ってくれたおかげで頑張れた。

ただし、埼玉県につく頃には風間くんは少しずつ僕を置いていき、栃木県に入る頃には姿が見えなくなった。



だんだんと体力はなくなり、周りにも走っている生徒が見えなくなってきたが、僕は走り続けた。



そして、札幌についた辺りでゴールから歓声が聞こえた。

続いて拍手がきこえる。

このとき先頭集団がゴールしたようだった。

釧路まではあと少しというのが分かった。



そして、依然として周りには誰もいなかったが走り続け、ついに釧路にたどり着いたとき、僕は愕然とした。


誰もいなかったのだ。


ゴールテープを持つ先生も、応援してくれているはずの下級生も、先にゴールしているはずの同級生もいなかった。

何より、ボランティアでおしるこを炊き出ししているはずの保護者会のお母さんたちがいなかった。

もちろんおしるこもない。

おしるこが原動力で走っていた僕は1歩も動けなくなった。

僕はその年、おしるこを食べることなくマラソン大会を終えた。


とぼとぼと学校へ戻る途中、風間くんがいた。

コースから逸れた道の駅で海鮮丼を食べていた。

「一緒に走ろうね。」と誘っておきながら、自分は途中で海鮮丼に目がくらんだのだった。


絶対に告げ口してやろうと思っていたが、学校に着いたときには、みんなは中学生になっていた。

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