リコーダーの『ド』と帰った話

小学校からの帰り道、リコーダーの『ド』がいた。


『ド』は草むらにしゃがみこんで何かしている。

近づいて様子を伺っていると、おもむろに草をちぎり穴に当てている。

後ろからではそれ以上分からなかったので声をかけることにした。


「おーい。」


「ポピッ!」


背後からいきなり声をかけられ、『ド』は情けない声をあげた。

何をしているのか聞くと、今日の音楽の授業で上手に吹かれなかった、と教えてくれた。


確かにリコーダーで『ド』を上手に吹くのはかなり難しい。

息を吹き込みすぎてもいけないし、それを恐れてそーっと吹きすぎてもいけない。

そこで、『ド』はどれくらいの強さなら上手に吹かれるか、草笛で試していたのだそうだ。


「それにしても何も聞こえなかったぞ。」


そう告げると『ド』は「フォヨフョ~」と弱々しい声をあげた。

草笛をしようと思ったがこれも上手に吹けなかったらしい。





そこで僕は『ド』が上手に吹かれるように練習に付き合ってやることにした。

まずは『ド』の穴を押さえてみた。

『ド』は苦しそうにしていたが、これをしっかり押さえないと『ド』が『ド#』になってしまう。

小指に穴の痕がつくくらい強く押さえた。

そして吹き込み口から息を入れる。

強すぎず弱すぎず程よい強さで吹く。

すると『ド』はくすぐったそうにして体をよじらせた。


「パピーッ!」


『ド』はくすぐったさに耐えられず地面を転げた。


「ピーッピッピッピッ!ポピーッ!ピッピッピッピッ!」


「だめだよ、リラックスしなきゃ。」


そうは言っても、吹き込み口から吹かれたら誰だってくすぐったいに決まってる。

僕だってそうだ。





『ド』が落ち着くのを待って、もう一度トライした。

今度はリラックスしてゆっくり吹いた。

『ド』は一瞬首をすくめたが、先月死んだペットの「『ド』ナテロ」の事を思い出すようにして、何とか笑いを耐えた。

強すぎず弱すぎず吹く。


「ポー」


「出た!」


僕たちは顔を見合わせた。


「やったあ!」


『ド』も嬉しくなり僕に抱きついてきた。

僕のものとはいえ、『ド』はヨダレまみれになっていたので、抱きつくのは遠慮した。

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