成長痛が過ぎた話

成長期を迎えていた中学生の頃の話だ。

みな成長期で背が伸びたり、靴のサイズを大きくしたりだった。

僕も例に漏れず成長期を迎えていた。


ある日、校庭のすみに1羽のスズメがいた。

見たところぐったりして動かない。

僕は両手でスズメをそっと抱き上げると、保健室に連れていった。


保健室の先生にスズメを見せた。

ぐったりして動かない。

先生はしばらく観察したあと、羽を持ち上げた。

スズメは羽に傷を負っていた。

出血もしている。

先生は慣れない手付きで傷口を圧迫した。


「これで止血はできるけど、獣医に見せた方がいいわね。」


そう言うので、後は先生に任せることにして保健室を出ようとしたときである。


胸のあたりに痛みが走った。

苦しくて息をするのもままならない。

僕はその場にうずくまった。


「ちょっと、鳥井くん大丈夫!?」


気付いた先生が駆け寄ってきた。

胸の痛みはどんどん強くなってくる。

ぶわっと汗も出てきた。

先生は僕が胸のあたりを押さえているのを見て何か察したようだった。


「胸が苦しいのね!もしかして、いまスズメの事考えていたんじゃない?」


僕は頷いた。


「やっぱり。それ、成長痛よ。」


「え?」


「背が伸びるときに膝が痛くなるでしょ?それと同じよ。心が成長するときには心が痛くなるのよ。」


「胸が締め付けられるんです。」


「そう、それが成長痛。胸がぎゅっと締め付けられるその気持ち、成長痛の証よ。」


「息がしづらいんです。」


「そう、それも成長痛。胸が詰まるような感覚でしょ。成長痛の証よ。」


「でも、心配です。もし成長痛じゃなくて心臓の病気だったらどうしよう。」


「そう、その未来に心配になってしまう気持ち、それこそ成長痛の証よ。」


僕は、このとき初めて成長痛というものを体験した。

なので、うっかり心臓や肺の病気になったのだと勘違いするところだった。

先生は、少し保健室で休んでいけば大丈夫と言って僕を休ませてくれた。


それから時々胸のあたりが痛むが、その度に心が成長しているんだなと感じた。




そんなことがあってからしばらくして、おじいちゃんが倒れた。何でも胸のあたりを押さえて痛がっていたらしい。

あの年になっても心が成長するのだな、と思った。

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