28話 幸運の能力

「来るな。」


小夜子は叫んだ。


「行くから」


「危険だ。魔法も使えない人間じゃ無理だ。」


「それはどうかな」


空はアイニコロス目掛けて走っていった。

するとサリエラスは空の方へと魔力を注いだ。

それに気がついたアンエラス達も空に魔力を注ぎ始めた。


「小夜子はそのままアイニコロスに攻撃を続けろ」


サリエラスはそう言うと空の方へと視線を移した。


能力を授ける


サリエラスは微かな声でそう言った。

小さな瓶が空の頭の上へと飛ばされ、空中で割れた。

サリエラスの素早い回復魔法で空には傷1つ見えなかった。


「能力で勝てると思うのか?」


「幸運の能力」


アイニコロスの問いにサリエラスはそう答えた。


「最近やっと見つけた能力だが、ここで使う以外思い浮かばなかった」


アイニコロスの顔が青ざめていくのがわかる。

魔法の天才と言われ、自分の周りには昔からたくさんの人がいた。

その天才は1度敗れたことがあった。

魔法ではなく、能力によって。


「その能力がずっと欲しかったんだ…やっとか…」


クリエラスはため息をついた。

この世界を変えるために能力を必要としていた訳ではなく、そんな能力を手に入れるためだけに働かされていたことを自覚し、怒りすら込み上げてくる。


「朝はこんな事のために能力を奪われたのか」


それでも深呼吸をして、心を落ち着かせた。

そして、「俺はそんな能力なくても好きな人を幸せにするからな」と胸を張って言った。


「俺に今、幸運の能力があるのなら…」


空は1度立ち止まった足を動かした。


「倒して、幸せになる」

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