第2話

 裏道。建物と建物の間。海沿いだけど、ちょうど海が見えないところ。そこに、自販機がある。

 水と、コーラと、コーヒーと、お茶。普通で、特に変わり映えのない商品。どこにでもあるようなやつばかり。

 財布を四角いところにぶつけて、買う。出てきたのは水。

 開けて、飲む。味がしない。


 任務ばかりだった。そのくせ、自分にしかできないことばかりで。これを怠ると、街が一個まるごと失くなってしまうような、そういう任務。

 つかれていた。だからといって、やめることもできない。こうやって人間はぼろぼろになっていくんだろうな、っていう、心地よい絶望。

 自分が倒れて街がなくなるか、それとも自分がしぬか。どちらかひとつ。いや、結果は同じか。街がなくなれば自分もしぬ。

 どうてもいいことだった。ぼろぼろになって、誰からも見えないところで、ひっそりとしぬ。それでいい。他には何もいらない。


 水。味はしない。


 むかし、ここには女がいた。

 裏道には眩しすぎるほどのきらきらした格好で。自販機の前でうろうろしていて。買うための財布を持ってなかった。


 つかれているな。ずいぶんと昔のことを思い出している。

 あの女。自販機の前にいて。にこにこしてたな。いつも買ってやると、嬉しそうに飲んでたっけ。

 お互いに、深い会話はしなかった。こちらにも事情はあるけど、たぶん、向こうにも話せないことがたくさんあったと思う。あの綺麗さで、裏道に突っ立っている女。不思議ではある。そして、なぜか。似合っていた。裏道の、その、アンニュイな感じが。彼女の心を表しているような。


 あれ。


 冷たいな。

 身体が。


 視界が、半分になる。

 あぁ。

 倒れてるのか、これ。


 自販機の前。

 女のことを、なんとなく、考えていた。

 起き上がる気は起こらない。たぶん、終わりが来たんだと思う。どうでもいい雑務にころされる自分。それでいい。最後の食事は、味のしない水。女と食べたごはんは、味があったんだけどな。


 彼女は、街にいるんだろうか。

 また自販機で何も買えなくて、うろうろしてたりして。まぁ、街中ならコンビニもあるし大丈夫か。


 感覚が、にじんでいく。どうやら、そろそろらしい。

 彼女は、元気だろうか。無意識に、手が動く。そう。いつも、眠っている彼女に毛布をかけてたんだっけ。どんなに綺麗な服を着ていても、眠るときは、普通なのだと思った。そう。いつも、彼女は泣いていた。理由が分からないまま、寝ている彼女の涙だけを拭って、隣でなんとなく仮眠をとる。そういう日常だった。


 手が、何かを握った気がする。記憶の中の彼女の、手かもしれない。

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