09話
「暑いな」
「だね、後藤さんは大丈夫かな?」
「あれだけはしゃげているんだぞ? 大丈夫に決まっている」
そうか、間違っていたか。
日陰から一切出ないで絵ばかりを描いている子とは違う、水着姿でやたらと楽しそうだ。
「衣撫、水着を着てきたんだろ? だったら真道に見せてやれよ」
「暑すぎて無理です、大体、私は今日も涼しい屋内でゆっくりする予定だったのに楓さんは酷いです」
家でゆっくりしていたときに唐突にやって来た二人によって外に出ることになった、が、僕としてはありがたかった、何故ならいつものように母優先の彼女になってしまっていたからだ。
なんでも言うことを聞いてしまうというのも問題だけどなんにも言うことを聞いてくれなくなるのは困る、母も当たり前のように彼女の味方をするから自力ではなんとかできなかったところにそれだからだ。
「そう言うなよ、真道に独占されてからは一緒に過ごせていなかったんだからさ」
「それは勝手に楓さんが距離を作っていただけですけどね」
距離を作っていたというのも正しくない気がする、中途半端にしたくなかったから彼は後藤さんを優先していただけだ。
四人で過ごそうと言ってみても言うことを聞いてくれなかったのは彼女の方だった。
「衣撫ちゃーん! 私と遊びましょー!」
「ほら衣撫、行ってこい」
「ふふ、そんなに私の水着姿が見たいんですか?」
「真道がな、なあ?」
「見られたら新鮮だけどそれよりも楽しそうに遊んでくれた方が嬉しいかな」
いや、それよりも後藤さんに付き合ってあげてほしいというそれが大きかった。
普通の状態なら楓君も連れて近づいているところだけど水着姿ということで無理、となれば後藤さんと同性の彼女に頼むしかない。
「ここにいるだけでも十分楽しいんですけどね、でも、あまり空気の読めない行動もしたくないですから一つ言うことを聞きましょうか」
彼女が離れてから少しして「正直、やばい状態なんだよな」と楓君が吐いてきた。
「香耶の勢いに負けそうなんだ」
「負けていいよ、無理をしたら精神に悪いよ」
「……まあ、衣撫が真道の彼女になってからは多少は動きやすくなったが、だからってすぐに変えるのも――」
「前も言ったけどすぐじゃないよね、かなりの時間が経過したんだから大丈夫だよ」
彼はこちらの腕を優しく突いてから「悪魔の囁きだな」と言って苦い感じの笑みを浮かべる。
「ははは、素直になれー」
「そうだな、真道みたいに素直にならないとな」
「ぼ、僕らの場合は衣撫さんが頑張ってくれただけなんだけどね」
「はは、情けないところが真道らしいよ」
じ、事実だからなにも言い返せない。
そのため、彼から意識を外して前の方を見始めた。
するとなにを勘違いしたのか「衣撫が水着姿じゃなくて残念だったな」と言われて首を振ることになったのだった。
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