第3話 ゴブリンと交渉しキノコを得る

「荒事をやらせたいなら、旅商人じゃなくて冒険者に声をかけろよ」

 俺のつぶやきに、兎がタンタンタンと足を踏み鳴らす。

 この兎、夜しかしゃべれないとのこと。昨夜のうちに決めた合図では、二回足踏みが肯定、三回足踏みが否定だ。

「へいへい、とにかく何とかしろって事ね」

 兎が欲しいものはキノコ。丸く青白い傘を持つ、親指ほどのサイズのキノコが両手に余るほど要るのだという。

 街道から外れて、そのキノコがあるという洞窟までは来たのだが、入り口前でゴブリンが見張りをしているのだ。

 槍の穂先はちゃんと鉄だし、着ている服も模様が描かれた厚手の毛織物。ゴブリンにしては身なりが整っている。つまり、それだけの力がある集団なのだろう。


 護身用の小剣はあるし、不意をつけば見張りの一人は倒せる。しかし、洞窟の奥からもっとゴブリンが出てきたら勝てない。

 ここは、商人風のやり方で行く方が良いだろう。干したアヤメの花びらを口に含む。花の香りが鼻に抜けたところで、俺は身を隠していた茂みから出た。

 小剣は鞘の中だし、歩みもゆっくり。普通に散歩に来たような雰囲気を出す。出しているつもりだ。

「やあ、お友達」

「……何の用だ」

 ゴブリンは怪訝そうな表情で俺を眺める。まずは第一段階クリアだ。


 話をしやすい距離まで近寄り、兎からもらったキノコを見せる。

「このキノコを探してるんだ。君の洞窟にありそうなんだが」

「あるな。でも、タダじゃやれない」

「これでどうだい」

 キノコに代わって取り出したのは、干した果物だ。ムアンといって、南国の特産品だ。しかも、これは拳二つ分ほどの大ぶりなやつ。

「知らない果物だな」

「うまいぜ。味見してみろよ」

 端の方を少し千切って渡してやる。自分用にも少し千切って口に放り込んだ。

 甘みが口の中に広がる。生だとスッキリした酸味があるのだが、干すと甘味の方が強く出るようだ。

 北の原野に生きるゴブリンにはコレが良かったらしい。表情から警戒が消え、目がまん丸に見開かれる。

「四つよこせ」

「デカいんだし、二つでいいだろ。二つと、この袋一杯分のキノコの交換だ」

「四つだ」

「二つ。ただし、新品にしてやるよ」

 味見で千切った一つをしまい、新しいのを取り出す。

 それでもゴブリンはちょっと考えていたが、ニタリと気味悪く笑って頷いた。

「いいだろう。ついてこい」


 ゴブリンの後に続いて洞窟に入る。

薄暗いが、所々に夜光キノコが生えているので何とかものが見える。代わりにかなりカビ臭いが。

「なんだい、そのエルフは?」

「取引相手だ。キノコが欲しいんだとよ」

 声をかけてきた雌ゴブリンたちはそれで納得したらしい。後で分けとくれと言って去っていく。

 いつのまにか兎が足元についてきていた。大胆さにあぜんとしつつ、一応予防線をはる。

「その兎、俺のだからな」

 兎は不満げに足を踏み鳴らすが、ゴブリンは素直にそうかと受け入れる。言われるまで居たことにすら気づいていなかったようだ。

「ほら、このキノコだろ」

 ゴブリンが立ち止まって指差した先に、青白いキノコが群生している。

兎が二回足踏みをしたのを確認し、俺は袋にキノコを詰め込んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る