第2話 金沢―ピンチはうんこと共に訪れる
石川県金沢市、私がずっと行ってみたかった観光地の1つであった。
テレビに映る金沢駅や兼六園、古めかしい茶屋街、新鮮な海鮮、金沢おでん・・・観光スポットにしろ、グルメにしろ、金沢と名のつくもの全部がとても魅力的に見える。
なによりも私はゴーゴーカレーが大好き。ゴリラのトレードマークの金沢カレーのチェーン店。首都圏にもいくつか店舗がある人気の金沢カレーのお店だ。
金沢カレーはソースベースの味の濃いルーで、野菜や肉などの具はなく、薄めのトンカツとキャベツが乗った金沢発祥のカレーの事を言う。ちなみに銀色の皿にフォークなのが金沢カレースタイル。オタクな私は秋葉原に行ってはゴーゴーカレーを食べる学生時代を過ごしたので、金沢カレーは特に思い入れのあるカレーなのだ。
と、いうわけで、「金沢で金沢カレーを食べたい!ついでに兼六園も見てみたい。」というノリで金沢行を決定。また当時父親が新潟に単身赴任をしていたため、金沢に一泊したのち、新潟に移動して、合計3泊4日の旅をしようと計画。自宅のある首都圏から金沢、金沢から新潟全て移動は激安高速バスという、貧乏旅。
※金沢と新潟は別に地理的に近いわけではありません。共通点はどちらとも日本海側というだけです。なのに私の脳内日本地図がガバガバだったが故に、どっちも行けるだろ!と、二県いっぺんに行くことにしました。
思い立ったが吉日系の私はそうと決めれば行動に移すのはとても速い。衝動的にバスのチケットを取り、ホテルを予約し、現地での計画を立てる。雪のシーズンだったので、願わくば豪雪地帯の豪雪っぷりを見せてもらおう、という浅はかな希望を胸に旅行当日を迎えた。(のちに雪によってかなり苦しめられることになる。)
首都圏から金沢まではバスで8時間ほどだったと思う。寝て起きたら金沢駅だった。夢にまで見た金沢駅。期待通りとても美しい街だった。雪が降りそうな雲行で、兼六園で雪吊りが見れるかも!と期待した。1日目はなにをしたのかほとんど記憶にないが、金沢カレーを食べたことは覚えている。
翌日は金沢城公園や兼六園など、有名な観光スポットに行く予定だった。その日の天気予報は雪。実際に外に出てみると雲行がかなり怪しい。金沢城公園に到着したあたりから雪が降り始めた。日本海側独特のどんよりした空に、湿気いっぱいの空気。金沢を100%エンジョイするのにはぴったりの天気だと思った。
しかし、そんな楽観的な考えは数十分経った後にはさっぱりと消え去っていた。雪が止まらない。それどころかドンドン勢いを増していく。さっきまでは芝生が見えていたのに、今は歩くのさえ大変なくらいに雪が積もっている。兼六園に移動した頃には目の前が真っ白で、雪吊りもへったくれもなかった。何にも見えないし、自分の体に雪が積もっている。
雪の兼六園は真っ白の世界で、どこからどこまでが舗装された道で、どこからが橋が始まるのかさえわからない。一歩踏み間違えれば、人口の水路にドボンである。幻想的な世界なことには間違いなかったが、兼六園の出口に向かえるかもわからなかった。
ひたすら歩いて、地図を発見するも、四方八方真っ白なので、目印も見つけられず、方角が分からない。寒さで鼻水が垂れ、足の感覚もなくなってきた。たまにすれ違う他の観光客も数歩歩いたら、見えなくなってしまうレベルの大雪だった。
「兼六園で20代女性の凍死体発見。園内で遭難可能性。」
なんていうニュースの見出しが頭にちらつく。もちろん生死も危うかったが、それ以上に便意がやばくなってきた。大雪の中をずっと歩き続けて、お腹が冷え切って、腸の動きが怪しくなってきた。
兼六園で凍死はともかく、うんこを漏らすわけにはいかない。うんこ付きの凍死体にはなりたくない。
私は一生懸命に歩いた。うんこを漏らしたくない、その一心で大雪の中を大股で歩き回った。たくさんたくさん歩いて、なんとかトイレマークを発見した。安堵感がすごかった。とにかく、とにかく便座に座りたい。私は焦ってトイレのドアを開け、リュックを下ろし、ズボンのチャックを開けた。
・・・・間に合った。とりあえずはうんこ漏らしの凍死体にならずに済んだ。
歩き疲れた上に、うんこも止まらないので、5分は便座に座っていた。
すると、プルルルル・・・・と電話がなった。知らない番号だが、とりあえず出てみる。うんこは止まらないので、うんこをしながらの「もしもし」である。
「○○バスでございます。大変申し訳ございませんが、ご予約頂いていた、本日16時の新潟行きバスは運行中止になりました。バス運賃は後日払い戻しいたします。」
運行中止。うんこだけに。
薄々予感していたことだが、新潟へ行く手立てがなくなってしまった。そりゃこんな大雪であれば大体の交通機関は止まってしまうだろう。うんこをしながら途方に暮れていた私はとりあえず新潟にいる父親に連絡。夕方までに特急が動いていれば、特急で行けるところまで行く。それさえできなければ、金沢にもう一泊か新幹線で帰宅というところで落ち着いた。
うんこをいいところで切り上げて、兼六園を後にした私は、とにかく室内に入りたかったので、兼六園近くにあったさほど興味のない美術館で芸術作品を鑑賞した後、金沢駅へと向かった。もちろんその間も雪が止まることはなった。
みどりの窓口では乗りたかった特急列車
運休の決定を告げられた。このまま上越新幹線で帰宅するのもなんだか癪に障るので、どうせお金を払うならと北陸新幹線で行けるところまで行って、父親に車で迎えに来てもらうことにした。
その日、新幹線の車窓から見た真っ白い世界は今でも目をつぶると瞼の裏側に浮かんでくる。ミルクパズルのような真っ白さだった。
新潟の某駅に到着するも、雪のせいで父親の迎えが大幅に遅れ、3時間ほど駅構内で歩いたり座ったりを繰り返した。(本来であれば1時間もしない場所らしい。)
見慣れた車が駅に近寄ってきたときの安心感はとにかくすごかった。が、帰路でも、スリップや視界の悪さで、交通事故寸前な瞬間が何度もあり、死にそうになった。生きていることに感謝。
「日本海側の雪を舐めてはいけないし、大雪の日は家の中にいた方がいい。だけれども、北陸新幹線は雪に強い。」
そんな教訓を得た金沢一人旅だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます