どうでもいいけど忘れられない旅行記
ろくでなしクリエイティビティ
第1話 台湾―木の味ジュース
初めての海外旅行は高校1年生の時に研修旅行で行った台湾だった。国際系の高校に入学したこともあり、クラスメートの大半は海外旅行経験済みだったので、当時パスポートさえ持っていない私は負い目を感じていた。そこで私は両親に頼み込んで、学校主催の台湾への研修旅行に参加したのだ。
今まで一度も海外に行ったことがない、というか国内でさえほとんど旅行をしたことがない私にとって、台湾での1週間は全てが新しくて、珍しくて、キラキラ輝いていた。帰りたくない、台湾で生まれていれば、そう何度も思った。
台湾滞在中は姉妹校を訪れたり、毎晩夜市に行ったりと、短い期間ながらも本当に充実した毎日を過ごした。そんな台湾旅行での出来事は今でも鮮明に覚えている。しかし、その中でも強烈に私の五感に刻まれている記憶がある。
そう、それが「木の味のジュース」事件である。
事件と言って、ただホストファミリーに買ってもらった梅のジュースが木の味がした、というだけのことだ。だけども、私はあの木のジュースの味を忘れることができない。5年以上は経っているのに、あの独特な木の味を今でも舌が覚えている。
・・・
外食文化が根付いている台湾では、朝は屋台、昼は学校給食か購買、夜は夜市や地元の食堂と、ほとんど毎日外食に行く。私のホストファミリーは商売をしていた事もあり、本当に毎日毎食が外食だった。
ある晩、例ごとくホストファミリーに連れられて、地元の食堂に晩御飯を食べに行った。なにを食べたかは覚えていないが、食事と一緒にホストファミリーが頼んでくれた梅のジュースがあった。
コンビニのアイスコーヒーのSサイズほどの大きさのプラスチックカップに、たっぷりの透明の茶色の液体。私のおじいちゃんが昔作っていた焼酎に漢方の木のようなものを浸した謎の茶色い飲み物によく似ていた。(おじいちゃんは万能薬だと言って、私がケガをしたら傷口に塗ってきたけど、真相は不明。)
ホストシスターは「Plum juice! Yummy!(梅のジュース、おいしいよ)」とゴクゴクの飲みながら、それを私に勧めてきたものの、私にはどうにもおいしそうには見えなかった。私の知っている梅系の飲み物は緑色か紫色だったからだ。
しかしせっかくホストファミリーが買ってくれた飲み物なので思い切って飲んでみた。
・・・・・・・木!!!!!!!!!!!!!!!!!
これは、梅ジュースではない、木ジュース!!木を飲んだことも食べたこともないけど、きっとこんな味だと思う。
苦いわけじゃない、青臭いわけでもない、まずそもそも不味いわけでもない。でも、これ以上飲みたくない、そう思った。クセがすごい。なんと形容していいかわからないけど、「鉛筆の削りカスに梅シロップをかけて煮だして、森の中に数日放置しておいた液体」みたいな。台湾の人ごめんなさい。このジュースが好きな人ごめんなさい。だけど、そんな味がする。
私が二口目を飲むかどうか悩んでいるうちに、ホストシスターは半分以上飲んでいる。ごはんを食べながらこれを飲んでいる。なんてこった。
その日は一緒に研修旅行に派遣された同級生も食事に来ていたため、その子も木・・・ではなくて梅ジュースを渡されて飲んでいたが、やはり口に合わなかったようで、一口飲んでテーブルに置いてしまった。
私はどうしても食べ物を残すことに抵抗があったし、人に買ってもらったものだし、と頑張ってちょびちょびと飲み進めていた。何度飲んでも木の味だ。変に甘酸っぱさがあるのが、飲みにくさを加速させている。どうせなら思い切って苦い!とか酸っぱい!にしてくれれば、「苦いの好きじゃなくて・・・」と残すことができたかもしれないのに。
そうこうしているうちに食事そのものは終わり、私と同級生の梅ジュースだけがテーブルに残された。台湾では外食でたくさん頼んで、残ったものは家に持って帰るという素敵な文化がある。もちろんこの木のジュースにもその素敵な文化が適用される。まずそもそも、木のジュースはプラスチックのカップにストローが刺さっているので、そのままテイクアウトできる仕様になっている。
仕方なく(といったらとっても失礼だけども)、私と同級生は木のジュースを手にもって退店。家に帰る車の中で私は一生懸命に木のジュースを啜った。なるべく味を感じないように、舌に触れる面積を少なくして飲み込んだ。口全体ではなくて、上あごで飲む感じ。何回飲んでも木の味。台湾でいろんな変なものを食べたが、なんだかんだでこれが一番きついかも・・・と苦しみながら飲み進めた。なんとか底が見えてきた。もちろん途中まで一緒だった同級生のカップは全く減っていなかった。
そうしているうちに、同級生のホストファミリーの家に到着。そして危惧していたことが起こってしまった。
「・・・これいる??」
同級生は半ば強引に私に彼女の木のジュースを渡してきた。「お残しはあきまへんでぇ!」の精神で育ってきた私は断ることができなかった。
木のジュース、第2ラウンドの開始である。
彼女と別れた後、私はこの残されたほぼ満タンの木のジュースと寝るまでの数時間格闘した。ここまでくると、捨てるのが忍びない・・・というより、悔しいから意地でも飲み切ってやろうと、半ばやけくそにストローを吸い続けた。
飲み終わるころには、おなかはタプタプで謎の甘さによる胸やけ・・・体調が悪くなった。
もう当分ジュースはいらない。水でいい。水がいい。もう一生この木のジュースは飲みたくない・・・そう思った。
しかし、この数年後、私はこの木のジュースと再び格闘することになることを、この時の私は、まだ知らない。
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