第3話 スコットランド―夢って知らぬ間に叶うものなのかも

 小さい頃、世界まる見えが大好きで毎週欠かさず見ていた。その当時見た内容はほとんど覚えていないけど、1つだけしっかりと記憶に残っている回があった。


 それは「ネス湖のネッシー」についてのドキュメンタリーで、ネッシーの存在の有無をアメリカの学者がネス湖に泊まり込んで、あの手この手で調べ上げるという話だった。


 もちろんその学者はネッシーのことを見つけることはできなかった。でも当時の私はツチノコとかノストラダムスの大予言とかそういう都市伝説が大好きだった年頃だったので、「ネッシーなんて生き物がいるんだ~。ネス湖に行って、自分の目で確かめてみたいなぁ」と興奮しながら思ったことを覚えている。

 

 それから十数年、まさか本当に自分がネス湖に行くことになるとは、当時の幼き私は知る由もない。


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 突然だが、私にはスコットランド人のかれぴっぴがいる。そのかれぴっぴとお付き合いして、初めてスコットランドを訪れた2019年(初めて、というか一回しか行ったことないけど)。ぴっぴに会う事が目的だったので、どこに行きたいということもなく、1か月の滞在中半分は寝て過ごした。


 帰国も近づくある日、ぴっぴから他にやりたいことがないかと尋ねられた。「別にもう行きたいところもないなぁ」と、ベッドの上でゴロゴロしながら、「スコットランド 観光」とググる。


 検索結果の上の方に「スコットランドでやるべきこと20選!」みたいなサイトが出てきたので、タップしてみた。20選のうち上位は既に行ったエジンバラとかグラズゴーとかそういう有名どころが連なっていて、「もう行ったよ~、他にやることないのか~~スコットランド田舎すぎるよ~」と文句を言って、下の方にスクロールする。


 そこで私は運命の再会をする。


「都市伝説、ネス湖のネッシー」


 衝撃が走った。


「「ネス湖のネッシーってスコットランドにあったの!?!?!?!」」


 その瞬間、小さい頃の記憶がぶわっと蘇ってきた。世界まる見えのテレビの映像やネッシーを見てみたいと思った記憶、脳内に私のネッシーに関する情報が一気にやってきた。


 「ネス湖に行きたい!!!!」次の瞬間にはそう叫んでいた。


 「そのあたりはド田舎でなんにもないよ・・・?」と嫌がるぴっぴに無理やり頼み込んでネス湖へのバスツアーを申し込んでもらった。


 ネス湖はスコットランドの北部のハイランド地方にあって、都市部から車で5時間くらい。とにかく山の上の森の中、本当に本当になんにもないところにある。


 当日はグラズゴーから小さなマイクロバスで道中様々な観光名所を周りながらネス湖のクルーズまで向かうというバスツアー。乗客は私とぴっぴ、中国系のカップル1組と、中国人の学生1人。スコットランド人のおじさんと、ぴっぴの白人2人で残りは東アジアなのが面白かった。きっとそんなド田舎に湖を見にいく観光客は、物好きなアジア人だけなのかもしれない。


 道中山あり谷あり大雪ありでお城や休憩所に寄りながらのんびりドライブ。とにかく移動が長いので、せっかくの大自然ドライブでもほとんど寝てしまった。


 途中小さなパーキングエリアでパニーニを食べたり、野生の鹿に餌をあげたり(本当はルール違反)、なかなか充実した道中だった。運転手のおじさんがツアーガイドまでやっちゃうような、こじんまりしたツアーだったが、その手作り感が逆に心地よい。


 そしてたどり着いたネス湖。大きすぎるので湖なのかなんなのかわからない。

 

 小さいクルーズ船に乗り込んで数十分のクルーズ。ネッシーがいないか、ずっと湖上を見つめた。森に囲まれたただの湖で、印象が薄いので湖そのものはあんまり覚えてないけど、感極まって泣きそうになってしまったのは覚えている。

 

 世界まる見えを見ていたころは「行きたい」と思ったけど、「そんな遠くの外国に行けるはずがない」と心の中では思っていた。自分がネス湖に行けるはずがないと思い込んでいた。


 でもそんなのは思い込みだった。


 行けた。ネス湖に。あのネス湖に。


 帰り際お土産屋さんでキルトの帽子を被ったネッシーのぬいぐるみを買った。頭が大きいので首がグラグラ。小さい頃の私へのお土産、そんな気がした。


 10年以上経ったけど、私、ネス湖に行ったよ。ネッシーには会えなかったけどさ。



 スコットランドに行くまではすっかり忘れていた夢だったけど、夢が叶うっていいなぁ、と今でも思い出すと感動する。やりたい、と思っても、できるはずがないと勝手に自分で思い込んでしまうことってたくさんある。でも、多分それは自分の勝手な思い込み。


 きっと他にも「行きたい」と思ったけど、行けてない場所がいっぱいある。自分でできないと思って、忘れてしまった夢がいっぱいあると思う。


 これから何十年もかけて行くんだよ、やってやるんだよ。できるよ、私なら。


 だってあのネッシーを探しに行けたんだから。

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