第4話 スコットランド―あの頃私は理科の資料集が大好きだった
理科の授業は好きな方だった。というか、理科の資料集が大好きだった。授業中、先生の話も聞かずにずっと資料集ばかり眺めていた。その資料集の中でも大好きなページがあった。
「世界初!クローン羊のドリー」
ほんの少しのコラムで、4匹のドリーがこちらを見ている写真が載っていた。
なんだか分からないけど、その部分が大好きで、ずっと眺めていた。同じ顔が4つもこっちを見ているのがちょっと不気味で面白い。でも、羊なんて全部同じ顔に見えるからクローンかどうかもわからなかった。
写真のイメージが強くて、文章そのものはあまり覚えていないが、ドリーは4匹いるけど、みんな早いうちに亡くなってしまって、剥製は残っているという内容だった気がする。
クローンかぁ、なんかすごいなぁ、自分のクローンがいたらどんな感じなのかなぁ、同じことを考えて同じように行動するのかなぁ、それともただ顔が同じだけなのかなぁ、そんなことを考えていた理科の授業中。
そして、時は流れ2019年。
私は、そのドリーとご対面することになる。
エジンバラ観光に行ったとき、特にすることもないので、たまたま通りがかった入場無料の王立博物館に入った。
大きな博物館で、世界の民族衣装や楽器からイギリスの歴史、戦闘機、宇宙船、なんでもかんでもあるまとまりのない博物館だった。
ぴっぴと一通り、館内を見て回った後、最後の展示は一階にある子供向け?のごちゃまぜブース。乱雑にいろんなものがいろんなところに飾ってあり、順路もへったくれもない。
そんな中、ふと、目に留まった展示品がった。動物のはく製がグルグルとゆっくりまわっている。
なにこれ、と近づくと、どこにでもいそうな平凡な羊、の剥製。
「なんでここに羊の剥製があるの?なにこの羊(笑)」とちょっと馬鹿にした感じに呟く。
するとぴっぴ、
「知らない?クローン羊。あれ、イギリスの羊なんだよ」
私の体に衝撃が走った。これが、雷に打たれるような衝撃か、と。
「ドリー!?!?!?!?!?!?!」
そう、あの時、理科の授業中、先生の言っていることを聞かずに、ずっと眺めていたあのドリーが目の前にいる。10数年の時を越えて、私とドリーは遂に対面することができた。
衝撃の後は、感動の波が押し寄せてきた。
もし、私が国立博物館に来なかったら、もし私がこの展示の横をただ通り過ぎてしまっていたら、もし、私がデイビッドとお付き合いしていなかったら、
というか、まず、もし、あの時、私が資料集に興味なんて示さないで、理科の授業に集中していたら、こんな運命的な出会いをすることはできなかった。
ほんの小さなコラムだったから、大半の児童は気がつかなかったはずだ。だけど、私はなぜかドリーに心惹かれて、毎回といっていいほど、見つめていた。
きっと私とドリーはここで出会う運命だったんだ。
それから私は大量にドリーの写真を撮りまくった。正面から、横から、おしりから。一緒に自撮りも撮った。
ドリーとバイバイするのは寂しかった。また、会いに来るからね、と心の中でつぶやいた。
ドリーは剥製になっている、だからきっと半永久的にこの国立博物館に居続けるだろう。私が死んだら、だれか私の体を剥製にして、ドリーの隣においてほしい。
だって私たちは運命の赤い糸でつながれているから。
私は帰り際、ギフトショップでドリーのマグネットとポストカードを買った。
今でもたまに眺めている。
私のドリー。
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