眠くなる事件

真真

第1話 眠くなる事件

思いもよらない出来事。


みんな一度は経験したことがあるだろう。


それも悪い方の。


そんな時、人はそれぞれの"オワッタ感"を演出する。


顎が外れて額にはガーンの5本線。


発狂して硬さノーチェックの壁を全力パンチ&骨折。


飲めないバーボン一気飲み! からの号泣。


それぞれの"オワッタ感"。


それは突然やってくる。


その日は友人のTと飲んでいた。


Tは伊藤英明似のアパレル業界で働くお洒落ガイ。


今日乗ってきた自転車も30万のお洒落クロスバイク。カッコいい。


ただ、伊藤英明似だからといってイケメンなワケでも当然モテるワケでもない。むしろモテない国の人。


今、一瞬紹介してもらおうとした女子、すまん。


僕たちはお会計を済ませて店の外に出た。


すると、先に店を出たほぼシラフのTが茫然と立ち尽くしている。


「……ない」


「……あ、ないねぇ」


Tのお洒落自転車がパクられていた。


30万が……。いや、金額の問題じゃない! 帰りの足! 違う! 盗まれたTの心のケア! 


すっかりテンションの下がったT。伊藤英明のカケラもない。当たり前だが。


こんな状況、誰だってそうなる。


ただ、ここにいても仕方ない。


「と、とりあえず警察行こう! な! 被害届! 付いてくから! それともアレか、もう一軒行くか!? 飲むか! 忘れちゃおっか!」


僕はちゃんと空回りしていた。


ただ、そんな言葉がTの耳に届くはずもなく、"オワッタ感"丸出しのTが呟いた。


「眠くなってきた……」


はにゃ?


ここは山岳でしゅか? おいっ! 寝るな! 今寝たら死ぬぞ! 仙崎!!! 


"し〜ん〜じぃよぉ〜♪"。


頭の中で伊藤由奈の"Precious"が流れる。感動的! 


なワケない。


落ち込んだTを見送ったあと、盗まれる自転車も持っていない僕は、歩きながら夜空を見上げて思った。


"眠くなるパターンもあるんだぁ……"。




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眠くなる事件 真真 @shinshin_k

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