第7話 飛行機

 ヒトリタビにおいて飛行機を利用することはない、以上。


 恐らく私が東京や阪神に住んでいればこのようなことを言い放っていたかもしれない。

 しかし、日本の西の果てである九州に住んでいる私が滋賀より先に行こうとすれば、どうしても飛行機が選択肢の一番上にに浮かんでくる。

 以前であれば列車の中で二泊すれば東京まで行くことができた。

 ムーンライトながらが引退し、仕事に時間を割かねばならない現状では、流石に速さを求める場面も出てくる。

 そのため、今回は私が飛行機を苦手とする理由も含めて話をしていきたい。


 飛行機が苦手というと高所恐怖症を疑われそうだが、ビルの展望台など剝き身でなければ大丈夫である。

 なお、吊橋や外に出る必要のある展望台などは落下への恐怖が大きいため足が竦み、平生ではいられない。

 むしろ、街を俯瞰して見たり雲を上から覗いたりできるのはいいところではなかろうか。

 一度、台風の間際で乗った時にはそれなりに揺れたものだが、冬の玄界灘に船を浮かべることに比べれば何も怖くはない。


 国内線で旅をする場合、まず引っかかるのが酒である。

 別の紀行文で書いたのだが、空港の酒が高い。

 売店に置いてあることにはあるのだが、街中から離れている場合には観光地価格になってしまっており、旅の初めに財布と相談することとなる。

 それならと伝家の宝刀ポケット瓶を探そうとしても見当たらぬ。

 加えて、空港に到着した後のことを考えれば好き放題に飲むこともできず、繋ぐことも難しく、抑え気味で飲む必要がある。

 まるで鎖に繋がれた犬のように従わねば、航空機の前で横臥してしまいかねない。


 飛行機の利用といえば、空港までの道のりと搭乗までの時間待ちが苦手の一つである。

 街中にある福岡空港などであれば話は別なのかもしれないが、田園風景に周りを囲まれ、さらにそれからも少々隔絶される。

 新幹線の駅などでもありはするのだが、その構造の大きさから自然に没入しようとしても阻害される感覚が勝ってしまい、思うように旅の時間を使うことができぬ。

 加えて保安検査などで時間が取られ、自分のために選んで使えるゆとりを少しずつそぎ落とされていくのが切ない。

 ラウンジでも使えるようになれば話は別なのかもしれないが、それはそれで何か噛み合わないような気もする。

 清潔で隔てられた空間でビールを開けるよりは、ガード下の揺れの心地よい居酒屋や鳥栖駅のホームでかしわうどんと缶ビールをやっている方が絵になるではないか。


 ただ、言い換えればこの日常との隔絶感が飛行機を使うことで得られる効果の一つなのだろう。

 だからこそ多くの方にとっては飛行機が旅行における交通手段の一つになるのだろうが、私は日常から離れてに触れる方が好ましい。


 話が逸れてしまったが、飛行機の良いところの一つに全席が指定されており、搭乗中の環境がいいことも挙げられよう。

 初めて搭乗した際には、機内ラジオやキャビンアテンダントによる持て成しに目を剝いたたものだが、新幹線の車内販売が縮小される中でこれはさらに大きい。

 車内で何かを買う必要はないと準備万端の方には無用の長物なのかもしれないが、気の向くままに何かを求められるの喜びというのは良い物である。


 その代償ではないが、飛行機は時間に厳しい。

 一度だけやらかしてしまったことがあるのだが、搭乗手続きに間に合わず乗ることができなくなってしまった。

 新幹線などであればその日の自由席であれば改めて別の便に乗れるものの、そうした救済措置がないことがあるため、相当な余裕を持たせておく。

 このというのが厄介な存在であり、問題が起きても対処できるようにするためのものである以上、不用意に他の予定を組む訳にもいかない。

 意図せぬ余白やゆとりのために生じた自由の利く暇であれば良いのだが、どうにもシステム的な相性の悪さが私に忌避感を与えているようだ。


空駆ける 自由を得たり 席に着き シートベルトに 囚われし身は


 自家用ジェットであればどうかとも思うが、そのような金もない小市民には分不相応な夢なのだろう。

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