第5話 ヒトリタビの種類

 ここまでヒトリタビの外堀を埋めていったのだが、では、ヒトリタビにはどのような種類があるのかを序段の終わりに考えていきたい。


 まずは私が最近デビューしたソロキャンプであり、これはヒトリタビの究極の一つであると言っても過言ではない。

 テントを張って火を起こすだけであとは好きにできるというのが何とも快く、一か月のうちに三度も敢行したほどである。

 この時、あれもこれもとやることを増やし過ぎてしまえば性に合わぬと二回目で気付き、三回目はただ無為に過ごしてから酒を楽しむにとどめた。

 時に寝ころび、時に歩き、心の赴くままに筆を執る――贅沢というのはこういうことを指すのだろう。

 旅といえば動き、色々と体験しなければならないという思いになりがちだが、そのようなものは山里に置いていこう。


 幼稚園の頃の話から散策もヒトリタビの内に入ると察した方は良い勘をされている。

 それこそ昔は山を一つ越えた村へ行くのも一大事であり、今でも最も手軽で最も奥深い旅の一つと言えよう。

 いつもと違う路地に入るだけで街が見せる景色は変わり、日常という鎖が朽ちていくのだが、なかなかそこまで没入するのは難しい。

 かくいう私も一時期は散歩だけでは旅気分を抱くことが困難となっていたのだが、それは携帯電話に起因し、スマートフォンの登場で解消された。

 携帯電話を持ってからはいつ日常に引き戻されるかが分からず、多少の路地では十分に日常から離れることができなくなっていたのだ。

 その一方で、スマートフォンを手にしてからはファインダー越しに風景を客観視することを幾度か繰り返したことで、自分を日常から切り離すようになった。

 今は意図せずとも切り替えられるようになったものだが、利便性が必ずしも幸せをもたらすとは限らない。


 何か深刻な話をしてしまったような気もするが、路線を戻そう。


 私が最も愛するヒトリタビは列車の旅であり、青春十八きっぷなどのフリー切符を手にすると無限に夢が広がっていく。

 本当は旅の初めから終わりまで鈍行で回れれば良いのだが、近頃は快速夜行もなく、十分な時間も得られないため特急や新幹線を挟むこともままある。

 ただ、あくまでも主役は普通列車であり、快速列車であり、その街に住む方々の日常を運ぶ列車であって、それを手放すつもりはない。

 長距離を移動しつつ、つぶさにその土地の在り方を味わうことができるのは列車旅の特典であり、この国から失われつつある光景でもある。

 呑兵衛にとっては自由に飲めるのも嬉しいところだ。

 流れゆく絶景を眺めつつポケット瓶を舐め、ボックス席に佇めば、もうたまらない。

 車内での飲食はけしからんいう風潮も最近ではあるが、牛飯弁当を掻き込む男が漫画でいたように、それこそ往時は自然な光景であった。

 移動と旅情と鷹揚な窮屈さとが同居した古き良き時代である。


 後はツーリングやドライブも有力なヒトリタビの一つである。

 こちらは飲酒が制限されてしまうが、その代わりにより細かなところに入り込むことができ、時間の制約から解放されやすくなる。

 今の私はバイクを持たぬため、もっぱらデミオの世話になりっぱなしなのだが、学生の頃は原付でもあちこちを回った。

 坂の多い長崎では時にエンジンが悲鳴を上げたのだが、それでも夕日を追って西海に向かったり、日見峠を越えて諫早を巡ったりと不便ながらも楽しんだものである。

 車は車で費用がかさむという問題点はあるが、快適さは段違いであり、もしもの場合には中で休むこともできるのが心強い。

 あまりに多用すると疲労が蓄積し、場合によってはエコノミークラス症候群に見舞われかねないが、多少の疲れを癒すには十分であろう。


気兼ねなく 欠伸を掻いて 草枕 夢に現に 彼岸を歩み


 他にもヒトリタビの種々相があるだろうが、あまり旅立ちが遅れても仕方がない。

 ここからはヒトリタビへと本格的に話を進めようではないか。


 次話より始まる第一段は旅のについて触れていこうと思う。

 無くして旅は成り立たぬ以上、真正面から向き合っていきたい。

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