第二十四話 魔法使いと文学少女(2)

『それで、結局彼にはどこまで喋ったんだ?』


「一年前の水巴さんと漆城の間にあった出来事についての私の推理を大体喋ってきたわ。勿論、魔法のことは伏せてね。誤解を解くなら、彼にはそれくらいで十分でしょ」


病院を出た道すがら、私は電話で赤藤に事の顛末を伝えていた。


私を魔法使いだと知る彼女には、全て知っておいて貰った方が都合が良い。


『その誤解について昨日は昨日は聞きそびれたが……どうして彼は水巴ちゃんが人殺しだと言ったんだい?そもそも彼と彼女にどんな接点があったんだ?まさか、水巴ちゃんが羽火を殺したとでも本気で思っていたのか?』


「そんな訳ないでしょ。彼は去年の夏から入院していて友達も皆無。そんな状況で漆城の死についてまともな情報が集まるとは思えない。況してや犯人を特定するなんて、彼が漆城を殺した犯人でもない限り不可能よ」


『君の言い方から察するに、彼は漆城の殺しに関与していない、と思っていいのかな』


「ええ。彼は漆城の死には関与していない。むしろ彼は私たち以上に何も分かっていなんじゃないかしら」


彼の言葉に怯えて家に引き籠った身分で言うのは何とも恥ずかしい話だが、あれは私が深読みし過ぎていただけだ。


あの時は誰が敵かも分からないし、いつ殺されるかもしれなかったので、無意識に精神が疲弊していたのだろう、負の方向にばかり考えを向けてしまっていた。


だが冷静に彼の状況などを考えると、彼が犯人である可能性は極めて低い。


「彼が犯人だったなら、その目的は勿論魔法使いの殺害―――私を殺すこと。だったら漆城を殺した後もあの病院にい続けるは無いでしょう?もっと言うと、夏から入院してる必要もない。魔法使いが学校にいることが分かっているなら、監視の為にも学校にいる方が都合がいい」


犯人である聖罰委員会の人間は、学校にいる魔法使いを殺す為、それが学生なのか、教師なのかまでは分からないが、少なくとも学校にいるのが不自然でない人間として潜入する必要がある。


しかし彼は去年の夏頃から入院していて学校に行っていない。


「学校には行かず、友達もいない。仮に彼が犯人なら、わざわざ生徒として潜入して来たのにその利点を最大限活かそうとしてないのはおかしな話でしょ?」


言うなれば、彼は犯人としてはあまりにも人に不干渉過ぎるのだ。


魔法使いを見つけて殺すことが役割である筈の犯人にとって、彼の動向は対極的と見なせるだろう。


「それにもう一つ不自然なのは、彼が漆城と何かあったであろうことを、全く隠す素振りが無いことよ。彼は水巴さんが過去に一度塞ぎ込んで、そこから立ち直ったことを知っていた。そのこを知っているのは学校の中では漆城くらい。つまり彼は漆城から水巴さんのことを聞かされるくらいには交流があったのよ」


「一度ならず二度までも他人に助けられるなんて、どこまでも迷惑な奴だな」と彼は言っていたが、それは一度目の―――漆城が彼女を助けたことを知っていないと出てこない言葉である。


また彼は水巴さんのことを邪険に扱っていた、それこそ、彼の態度からは憎しみの感情さえ感じられた。


それらの情報を基に考察すれば、どうして彼は「人殺し」と形容するくら彼女のことを嫌っているのか、真相が見えてくる。


「恐らく、彼はクラスの薬物騒動について相談を漆城にしていたのよ」


漆城がどうして学校側が知り得なかった水巴さんたちのクラスの状況を把握していたのかは疑問だったが、クラス内部からの情報提供者がいたと考えれば納得できる。


『成程。となると、彼が入院していたのもクラスの騒動が関与しているのかもね。それなら彼が水巴ちゃんを嫌うのも当然だ。なんせ彼女は薬の売人であり、表向きのクラス崩壊の元凶なのだからね』


「それについてはどうでもいいわ。彼の問題よ」


『辛辣だなあ』と赤藤は揶揄うが私は無視して続ける。


「普段からお人好しだった漆城は、水巴さんのクラスの生徒が不自然な行動が多いことに目を付け、入院した彼に接触を図った。その結果クラスの現状を掴み、水巴さんを助けることが出来た。そしてそれについての事後報告を彼も受けていたのよ」


彼女は水巴さんが世話になっていた嘉代さんにも事の顛末を一応話していたようだから、情報提供者である彼にも当然、知っておく権利があるとして教えたのだろう。


「それから半年が経ち、漆城が死んだ。これは学校でも有名な話だったから、彼の耳にも当然入ったでしょうね」


『そしてまた程なくして、私たちが彼の元を訪れたということか。確かに、そりゃあ元凶では無かったとしても、彼女はクラスの崩壊に加担していたし、実際に薬を渡していたのも彼女だ。憎くしと思っている相手のことを急に聞かせてくれと言われても拒絶する訳だね。しかし分からないな。それでも彼が彼女のことを人殺し言うのは、ズレているというか、意味が通らないのではないかい?』


「彼が彼女を嫌うのは、何もクラス崩壊に加担していたという理由だけじゃないのよ。そして人殺しというのは、単なる比喩。水巴さんが昔と同じように塞ぎ込んでしまった。彼にとっては、死んでしまった漆城が遺したものを無かったことにされた気分だったんでしょうね、そのことを彼は皮肉を交えてこう言ったのよ。水巴小八重は人殺しってね」


彼にとっても漆城羽火は大切な恩人だ。


その恩人の行動を蔑ろにされたとあっては彼も黙ってはいられなかったのだろう。


表現が過激過ぎるし、水巴さんのことをまるで考えない身勝手な断定ではあるが、彼がそう思考してしまったこと自体は理解は出来る。


『ふむ?だけど彼はずっと病院にいたのだろう?どうして水巴ちゃんが戻ったなんて分かったんだい?』


「元々水巴さんのことを信用してなかったでしょうから、いつかそうなると思ってたんじゃない?それに、私たちが訪れた時点である程度の当たりを付けていたんでしょうね。彼は自分が学校の人間とあまり交流をしていないと分かっていたからこそ、その数少ない交流の中で水巴さん関連の話が一番他人の興味を惹くものだということを理解していた。そこで水巴さんに何かあったのではないかと考え、性格の悪いことに鎌を掛けたのよ、『相変わらず変わっていないのか』ってね」


そして私たちはその言葉を強く否定することは出来なかった。


嘉代さんから本来の彼女については知識として知っていたが、それでも自分の見て来た彼女の印象を拭えず、曖昧な否定しか出来なかった。


そんな私たちの態度を見て、彼は「水巴さんが戻った」のだと確信してしまったのだ。


『成程。少なからず私たちにも非はあったわけか。だから君はわざわざ訂正しにもう一度彼の元に行ったんだね、他ならない水巴ちゃんの為に』


「……別にそんなんじゃない。勝手に勘違いされたままなのが癪に障っただけ」


『ツンデレちゃんだな~』


「どこがデレよ!?」


『はいはい。それで彼は納得してくれたのかい?』


「……知らないわよ。私は一方的に話してきただけだから。信じるか信じないかは彼次第。これ以上は私の領分じゃないわ」


私の話を聞いて尚彼女が変わらないと考えるのなら、それは彼の選択であり、彼の自由だ。


私がどうこう言えるものでもない。


『じゃあ後は―――だけだね』


「……ええ」


私は今病院を出た後その足で旧校舎に続く山道を歩いている。


理由は勿論、今日の朝に彼女にの返事をもらう為だ。


『竹中君たちはどうなるんだい?』


「証拠の薬は押さえたから、とりあえず彼の父親の会社が市販前の薬を流していたことを警察に届けるわ。そこらのJKが言ったところで信用は無いでしょうから、ちょっと工夫はするけどね」


魔法を使って製薬会社の内部告発を装えば、世間も無視はできないだろうし、疑うことも無いだろう。


『便利なもんだねえ、魔法ってのは。それで竹中君たちの記憶もいじったんだろう?』


「高校生が薬物中毒でした、なんて公表されても誰も得しないでしょ?今は皆復帰してるし、わざわざ表沙汰にする必要はない」


今日の朝の出来事は竹中君たちにとって一生モノのトラウマになっただろう。


あとは彼らが水巴さんたちの薬物使用を公表しようとした時に、強制的にそのトラウマを呼び起こしてあげれば、彼らも喋ることは出来ないだろう。


悪夢を見せるのは悪い魔法使いの十八番なのだ。


「子供には間違う権利があるんだから、これくらいは許されるわよ」


『詭弁だね』


「正論じゃなくても、それで皆幸せならそっちの方が良いわよ」


漆城もそう思ったからこそ、一年前に竹中君たちを脅した時点でそれ以上事件に首を突っ込もうとはしなったのだろう。


有耶無耶にしておいた方が却って良いことも、世の中には確かに存在するのだ。


『うん、それについては同感だ』


「切るわよ」


『ああ、彼女にもよろしくね』


旧校舎に辿り着いた所で、私は電話を切る。


体育倉庫まで進むと、彼女は倉庫の脇の方でしゃがみ込んだ何やら作業をしていた。


「……お墓?」


地面には掘り返した痕跡があり、その上には首輪を巻き付けた木の棒のようなものが刺されていた。


どうやらこれが墓石のようだ、


―――あんな手頃な棒、一体何処から持ってきたんだろう?まあこのオンボロ校舎なら、いくらでもああいうのは見付かるか。


何とも簡素な出来ではあるが、墓としての要素は十分に満たしていた。


「はい。ラルフと出会ったのはここなんです。昔から、ここでは本当によく遊びました」


「漆城も一緒に?」


「流石……知ってたんですね」


「彼女もたまにここの方角に来てたって、友達から聞いてただけだよ。こんな古びた校舎……水巴さんとラルフくらいしか来る理由がない」


「はい。時々ここに来て、私たちが大丈夫か確認してきてくれていたんです」


「あんな頭のおかしい中二病がいるって知ったら、竹中たちも易々とここに来ることは無かったでしょうね」


彼女を守ることが理由の一つではあった訳だ。


まあアイツのことだから、一緒に遊びたいって理由も勿論あっただろうけど。


「……はい。あの人は、本当に私たちに最後までよくしてくれました。―――あの日も、そうでした」


あの日。


聞くまでもない、漆城が死んだ日だ。


その日もアイツは水巴さんに会いに旧校舎に行っていた。


「彼女は……何か言ってた?変わったところとか……」


水巴さんは生前のアイツと恐らく殆ど最後に言葉を交わした人だろう。


彼女を殺した犯人を捜している私としては、死ぬ寸前の彼女のことは出来るだけ知っておくべきだ。


そう思って問い掛けたが、水巴さんは申し訳なさそうに頭を振った。


「すみません。特に変わった様子はありませんでした。いつも通り話して、そのまま先に本校舎に戻って行きました。まさか……その後あんなことになるなんて…………」


彼女は目に溜まった涙を拭う。


「ラルフも、本当にあの人にはなついていました」


立ち上がり、膝に付いた砂を手で払い落とした。


「―――だから、最期はここが良かったんです」


「そう……」


死んだ愛犬との奇跡の邂逅は、残念ながら今日の朝限りのものだ。


ラルフも彼女を助けられたことで未練を残すこと無く旅立つことが出来た。


「……ごめんなさい。私の魔法は、死者をずっと現実に留めておくことは出来ない。だから……貴女の為とはいえ、酷いことをしたわ」


ただでさえ辛い愛犬との別れを二度も経験させてしまった。


「いいえ。曲ヶ埼さんのおかげで、もう一度ちゃんとあの子と話すことが出来たんです。感謝をすれど、責めることはありませんよ。私の方こそお礼を言うのが遅れていました……ありがとうございます、曲ヶ埼さん」


「……それで、考えてくれた?」


「羽火さんを殺した犯人を捜すのを手伝う、という話ですか?」


「ええ」


その答えを聞くために、今私はここに来たのだ。


「…………ずっと考えていたんです、どうして私なのか、そして―――どうして私に正体を教えてくれたのかなって。曲ヶ埼さんはまだ聖罰委員会に命を狙われてる身ですよね?だったら身を隠すべきですし、魔法を使うことも、自分が魔法使いであることを知られることも、曲ヶ埼さんには不利益しかない。貴女は私を助けてくれた理由に、犯人を捜す為だと言いました。それだったら私を調べるだけでいい筈です。私と竹中君達の話は、羽火さんにとっては既に過去の事。あの人の死に、直接は関係の無いことなのですから、貴女はわざわざ命の危険を冒してまで関わる必要はないですよね?」


もう一度聞きます、と彼女は今朝の問と同じものを、私に投げかける


「―――どうして、私を助けてくれたんですか?」


「…………」


上手く返すことが出来ない。


私は、何故彼女を助けたのか?


それは私自身でもよく分かっていない。


今日まで私は猫に姿を変える魔法、姿を消す魔法を使ってきたが、それらの魔法は全て身を隠す為に使ったものだ。


見付かって殺されないようにする為の、逃避の魔法。


でも今日は違う。


ラルフの魂を憑依させ、竹中たちにもトラウマを思い起こさせる魔法を使った。


他人にも見えるように魔法を使えば、その痕跡を辿られて委員会に殺される可能性が高まる。


そこまでしても、個人が漆城を殺した犯人を見つけ出すという目的の為に私が得られたものは殆どない。


彼女の言う通り割に合わないのだ。


どうして、私は彼女のことを助けたいと思ってしまったんだ?


協力者を増やしたいから?


けれど彼女は一般人だ、赤藤のように人脈っが広いという訳でも無いだろう。


私の境遇を、孤独故の苦悩を知って貰いたいから?


けれど既に赤藤がいるし、何より水巴さんにこだわる必要もない。


それだけで、彼女を助ける理由にはならない。


彼女が私と似た、罪を背負った境遇にも関わらず逃げなかったことへの尊敬と畏怖から?


それでも隠れて助ければいいだけだ。


彼女に魔法のことを明かす理由にはならない。


どうしてだろう?


どれだけ考えても、言葉を探しても、理論を追及しても、答えは出てこない。


「……助けたいって、思ったから。それだけよ。私は魔法が使える以外は平凡な魔法使いよ?だから、魔法以外で貴女を助ける方法は浮かばなかった。貴女に魔法を隠さなかったのは、貴女が口が堅くて、犯人じゃないと分かったから。委員会の人間だったらあの状況でも私が来る前に切り抜けただろうし、薬の売人なんて目立つ役回りをする訳ない。そんなのターゲットの魔法使いに警戒されるだけ。それで……犯人じゃないなら仲間にした方が色々やりやすいことが増えると思ったのよ。私一人が目立ったら殺されるリスクが高まるから、なるべく犯人捜しの動きは複数人で分担した方っがいいし……」


精一杯考えて捻りだしたのは、色々と言葉を並べてはいるがその実理屈も説得力もない、空虚な言葉だ。


でも、そうとしか言えなかった。


半ば衝動的な行動。


そう結論付けるしかなかった。


「―――そうですか」


私の粗末な回答を、それでも彼女は真剣に受け止めてくれる。


「ではもう一つ、聞かせてください。どうして、羽火さんを殺して人を見つけたいんですか?」


「言ったでしょ?義理返しよ」


「羽火さんが殺されたのは貴女の責任ではありません。だから、義理を感じる必要もないんです」


「……そんなことない。私がいるから、アイツは死んだのよ」


私がいるから委員会はこのこの街に、この学校に、この学年に、目を付けた。


私がいなければ、あの自称魔法使いも死ななかった


だったら―――私が殺したと言えるだろう。


「違います」


「でも……」


「違います」


三度彼女は否定する。


有無を言わせない、彼女らしからぬ強い否定。


小柄で、普段は決して気の強くない彼女の否定に、私は反論することが出来なかった。


「羽火さんなら、そんなことは絶対思いません。貴女の責任だなんて、口が裂けても言いません。だから、貴女もそんなこと言わないでください。それは、羽火さんに対しての侮辱ですよ?」


彼女が語るのは論理ではない。


そして彼女の気持ちでも、私の気持ちでもない。


漆城の気持ちを、彼女は語る。


「あの人を、殺さないでください」


それは私への擁護ではなく、漆城を貶めない為の訴えだった。


彼女の否定は、死んでいった漆城の為のもの。


彼女への弔いだ。


彼女の言葉が、面白いくらいすんなりと私の脳裏に嵌る。


今まで私の中を黒く塗りつぶしていたものが一気に晴れた解放感と、自分の考えが見事に言い当てられたことでの気持ちの良い敗北感を同時に感じた。


彼女の言葉を聞いて、私はやっと気付く。


「……そっか」


私はあの自称魔法使いの使うペテンが、たとえ仮初であろうと人々を助け笑顔にした虚構が―――


「―――私、好きだったんだ」


一年前のあの日、最初に漆城羽火が使った魔法。


誰もを笑顔にした魔法。


それが嘘でも、私は魅せられてしまったのだ。


私は魔法が嫌いだ。


十一年前に全てを失った元凶。


それを私は憎み、もう二度と使うことが無いよう封印した。


けれど、彼女の魔法を見て私は思い出した。


彼女の魔法は正に私がかつて憧れ、無我夢中で学んでいたもの魔法と同じだった。


今よりずっと幼い頃、純粋に魔法が好きだった時分の気持ちが、彼女の魔法を目にした時、私の中に蘇ったのだ。


―――あの時私は既に、彼女に救われていたんだ。


「アイツの魔法が好きだったから、アイツが殺されたことが許せなかったんだ」


なんだ、彼女の為と言い訳しつつ、結局は自分の為だったんじゃないか。


自分が許せないから、彼女を殺した人間を憎み、罰を与えたいんだ。


―――私はただ、魔法をもう一度好きになった自分を認められなかっただけだった。


「だから、アイツが遺したものを守りたかったんだ」


魔法は人々を笑顔にして、皆を救ってくれる。


私が好きになったのは、魔法のそんな姿だ。


今思えば、それは勝手な幻想だったのだろう。


だからこそ、十一年前にその幻想が一度崩れたけれど、彼女のお陰で私はもう一度その幻想を取り戻すことが出来た。


―――もう一度、夢を見せられてしまった。


彼女が与えてくれたそれを今度は失いたくなかったから、彼女の魔法が、その魔法を扱う彼女の信念が、遺したものを捨ておきたくは無かったのだ。


彼女を殺したくはなかった。


私も、結局は道楽新や水巴と同じだった。


「アイツが救った水巴さんが、アイツのやったことが無かったことになるのが許せなかった。忘れたくなかった。忘れて欲しくなかった……何だ、単純なことじゃない」


死んだ人間を忘れたくない。


出来るだけ生前の姿を残したい。


残された人間によくある、普通の動機だったんだ。


今思えば、学校での彼女の道程を辿っていたのもただ犯人探しがしたいだけでなく、彼女の遺したものを再確認したかったとか、そういう意図が無自覚にあったんだなと今更ながら自覚する。


「……そうですね。本当に単純ですよ」


馬鹿にするでもなく、ただ諭すように水巴さんは言う。


彼女は分かってたのか、いや共感したのか。


彼女も、漆城に救われ、漆城の遺したものを失いたくはないのだ。


―――漆城を殺した犯人を許せないのだ。


「だから単純に、私も貴女の提案に乗らせてください」


彼女は深々と頭を下げる。


「これから、よろしくお願いします」


「……ええ、ありがとう」


こうして、文学少女―――水巴小八重は私たちの協力者になった。




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