第13話 貴女の居場所 2

「ファンはね、推しが自分が選んだ道を信じて、思うがままに生きている。そんな姿に勇気づけられて、元気を貰えるんだよ。アイドルってそういうもんでしょ。夢や幸せ、希望を与えてくれる、手が届きそうで届かない存在」


 私は途中でアイドルへの道から外れたけれど、ずっと結を推してきたからわかる。


「死にたいほど辛くても苦しくても、心が折れても生きていられるのは、結が、推しが存在してくれているからなんだよ。生きているだけで、誰かを救えてるんだよ」


 グスッ、グスッと零れ続ける涙を堪えようとしながら

「でっ、でも、本当はファンのみんなを心の底から愛してなんかない。どれだけ好きって言われても、満たされなくなっちゃったから」

 震える声で言った。


「バカだなあ」


 苦笑してしまう。しょうがないじゃない。


 ファンを愛していない、だなんて、

「誰よりもプライドをもってステージに立って、誰よりもファンを愛してきたって知ってるよ。今は前みたいにファンを愛せなくていい。いつかまた、愛せるようになるから」

 適当に慰めているわけじゃない。心の底から信じて言ってる。


「だって、結はメンバーから愛されてるもん。そうやって受けとった愛を、ファンに返してあげられるよ」


「そう……かな」


 絢子さんの電話を聞いていたはずなのに。


 今日の結はとことんマイナス思考だ。


「そうだよ。返信しないのに、毎日みんなからメッセ来るでしょ?」


「……うん」


 ホント、この子は愛されてるなあ。


 自覚ないみたいだけど。


「自分の意思でステージから落ちたけど、ずっと走り続けてきた結への、神さまからの特別休暇だった、って考えようよ。結のアイドル人生はまだまだ始まったばっかじゃん。お姉さんの分まで頑張るんでしょ? こんなところで終われないでしょ?」


 いつの間にか、結の涙は止まっていた。


 私たちは真っすぐ見つめ合う。


「大丈夫。結ならもう一度立ち上がれるよ。私が、メンバーが、ファンが傍にいるから」


 自分が信じられないなら、私を信じて。


 小さく、けれど力強く言い切った言葉は、結の胸に届いただろうか。


 彼女は微動だにせず、瞼を閉じて静かに深呼吸をした。

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