第13話 貴女の居場所 1/2

 既に冷めたトーストを口に押し込み、コーヒーで流し込む。


 目の前にこれがあると気が散ってしかたない。


 私がモグモグしている間にも、涙を零し続ける結。


 美人が泣く姿って美しいと言うか、神々しいのよね。


 なんて話は置いといて。茶化してる場合じゃないし。


 さて、この際だから彼女の本音を全部引き出しちゃいますか。


「あのさ、7月9日。ステージから落ちたじゃん。あれって……わざとでしょ?」


 マグカップをテーブルに置いて尋ねる。


「……あはははっ、バレちゃってたか」


 無理して口角上げちゃって。


「無理して笑わなくていいよ。別に責めないし、怒らないし」


 歪に笑っている結なんて見たくない。


「えっ、怒らないの?」


「うん」


「えっ?」


 なによ、そんなに意外?


「そりゃ一歩間違えれば大怪我に繋がっていたからさ、怒るべきだよねぇ普通は。でも、打ち身と捻挫で済んだし、こうやって一緒に過ごせたし」


 怪我の件に目をつぶれば、私にとっては幸せな毎日だった。


「……そっか」


「ごめんね、ステージから落ちたくなるほど追い込まれていたのに、気づいてあげられなくて」


 マグカップの淵をなぞりながら後悔する。


 私がもっと気持ちを理解して支えてあげていられれば、こんなことにはならなかったのに。


「ちがっ……光はなんにも悪くないよ。私の心が弱かっただけ」


 この子、自分よりレベルが下の子は眼中にないけど、基本的に自己肯定感低いんだよなあ。


 別に、

「心が弱くたっていいじゃん。完璧じゃなくたっていいじゃん。泣いたっていいじゃん」


「へ?」


 ポカーンと口を開けちゃって、可愛い。


 じゃない。真面目な話の最中だ。


「弱さも完璧じゃない結も愛してくれるファンは絶対にいる。完璧さしか愛してくれないファンなんて放っておけばいいんだよ」


 暴力的なまでの才能。


 バレエで培われた繊細な表現力。


 天から与えられたアイドルの才能。


 完璧な彼女だからグループのセンターとしてやって来れたわけだけど、本人が限界なのなら、もう拘る必要はない。


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