第5章 I-DOL *結*

第15話 お姉ちゃん

 物心ついたときからアイドルが好きだった……わけじゃない。


 アイドルという輝かしい存在を教えてくれたのは、2歳上のお姉ちゃんだった。


 私が小さい頃から入退院を繰り返していた母の誕生日。


 母はお姉ちゃんと同じアイドルが好きだったから、私たちは一生懸命歌とダンスを覚えて披露した。


 そのときの母の笑顔と涙は忘れられない。


 もう二度と見られないから。死んでしなったから。


 母が亡くなり、父は出張ばかり。大きな家に姉と二人きり。


 寂しい心を埋めてくれたのはアイドルだった。


 お姉ちゃんと一緒に華やかなアイドルを観ているうちに、私も興味を持つようになっていた。


 2012年、温もりと安らぎをくれたアイドルになるために、お姉ちゃんは親戚を頼って韓国に渡った。


 そして2016年、ついにお姉ちゃんはデビューした。7人組のガールズグループのメインラッパーとして、眩しいぐらいに輝いていた。


 滅茶苦茶嬉しくて、私はお姉ちゃんたちの曲を完璧に覚えてビデオ通話で披露した。


 お姉ちゃんは疲れていただろうに最後まで見てくれて、「アイドルを目指してみたら? 向いてると思うよ」って言ってくれた。


 だけど、連絡をとる度にお姉ちゃんはしんどそうで「アイドルはキラキラしてるばっかりじゃないんだねえ」って愚痴を零していたから、私には無理だと思って勉強を頑張った。


 今思えば、もっとちゃんとお姉ちゃんの話を聞いてあげれば良かった。


 2019年からグループ内の不和、お姉ちゃんがメンバーをイジめているっていう噂が流れ始めた。


 メンバーもお姉さんも否定していたのに、事務所は調査することを理由に、お姉ちゃんに活動休止を言い渡して。


 一部のファンも、メンバーもお姉ちゃんを守ろうとしてくれたけど、事務所は守ってくれなかった。


 その結果、お姉ちゃんは2020年3月。自殺してしまった。


 私に【好きなように生きて】【夢が叶いますように】と遺書を残して。


 後日、事務所はイジメの事実はなかったと漸く公表した。


 遅すぎた。


 もうお姉ちゃんは戻ってこないのに。


 事務所を心の底から憎んだし、後追い自殺も考えた。


 だけど、お姉ちゃんはもっとアイドルとして咲き誇りたかったはず。


 完璧なアイドルになって、お姉ちゃんの分までステージに立つ。


 私がアイドルを目指した最初の理由は、お姉ちゃんだった。

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