第10話 絢子オンニ

 8月14日。本日はバイトもサークルの練習もお休み。


 爆睡する結の隣でSNSをチェック。


 SAKURA Festival 参加申請初日、公式SNSから続々とメンバーたちが参加表明したことを伝える文章が流れてくる。


「ほーん……初日だってのにね。凄い勢い」


 1期生、2期生合わせて27名。


 その中で既に参加申請したのは26名。


「って、結以外全員じゃん」


 これはこれは、みなさん血気盛んなことで。


「ますます結が参加するかどうか、注目が集まりそうだねえ」


 うん、絶対集まる。


 ピロンッ。


 適当に画面をスクロールしていたら、ある人からメッセージが届いた。


「おっ、絢子あやこさんだ」


 1期生でグループのリーダー。


 周りをよく見ている、頼れるメインダンサー。


 私が活動を辞退して以降、結以外で連絡を取っている唯一のメンバー。


「なになに……【結は参加するの?】かあ。やっぱり気になりま――」


 なんて返信しようか悩んでいたら、


「おっと、電話」


 絢子さんから唐突な電話。


 さては、起きてるかどうか確認するためだけにメッセ送ってきたな?


「おはようございます、絢子オンニ」


「おはよ……って、貴女までその呼び方するのね」


「そりゃねえ。ファンの間でもこの呼び方が一般的ですから」


 韓国人のメンバーがSNSの生配信中に『絢子オンニ』と呼んでからというもの、ファンの間でも、グループのメンバーの間でもその呼び方が定着している。


 いいなあ、私も呼ばれてみたい。


 それは置いといて。


「どうしたました? 朝から」


「単刀直入に聞くわ。結はFestivalに参加するの、しないの?」


 ド直球ですねえ。


「今のところわかりません」


「もう踊れるはずよね?」


「踊れると思います。いきなり激しいダンスは難しいと思いますけど、徐々になら復帰できるんじゃないですかね」


 多分だけど。


「そう……それじゃあ戻ってこない理由は、足のことが原因じゃなさそうね」


「はい、私もそう思います」


 相変わらず隣で静かに寝息をたてる結をチラっと見ながら答えた。

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