第3章 SAKURA Festival

第9話 Festival

 8月12日。腹立たしいほどの快晴。


 こんな日にダンスの練習なんてしたくないんだけど、屋内な分だけまだましだよね。


「ねぇ、これ見て!」


「なになに、どうしたの」


 休憩中、アイドルオタクの可愛子ちゃんCが興奮した様子でスマホを見せてきた。


 周りにいた子たちと一緒に画面を見ると、

「ん……『SAKURA Festival 2023 -7th-』? なにこれ」


「花筏ってアイドルグループがあるんだけどね」


「うん知ってる」


 知ってるどころか、その絶対的センターが家に居候中なんですけども。


「そのグループの7枚目のシングルを歌うメンバーが、ファンクラブ会員の人気投票の順位によって決まるんだって!」


「はぁ!?」


 なんじゃそれ。どっか他所のアイドルが似たようなことやってたぞ。


「今回は16位までがタイトル曲……A面の曲を歌うみたい」


「ほーん」


 マジか。そんなことすんのか。


 彼女からスマホを借りて詳細を確認してみれば、投票できるのは1人1日3名まで。

 参加は強制ではない……。


「それで興奮してたんだ」


 ありがとうね、とスマホを返しながら可愛子ちゃんCに言うと、

「それだけじゃないのっ」

 彼女は隣に座って肩をくっつけながら別の画面を見せてきた。


 別に話関係ないんですけど、あんだけ踊って汗臭くないって何事? 滅茶苦茶フローラルな香りがするんだけど。


 やっぱり女の子っていいねえ。


 可愛いは正義。うん。全然タイプじゃないけど。


「注目は、結様が参加するかどうか! SNSはその話題でもちきりなんだよお」


「あー成程」


 無駄に楽しそうな彼女は放っておいて、画面をスクロールすれば【結たん参加希望】【結が参加しないと面白みに欠ける】【一番人気なのは結なんだから、こんなのやっても出来レースだろ】などなど、結に関する書き込みで溢れていた。


「結様参加するかなあ……光はどう思う?」


「うーん」


 参加申請の期間は明後日から8月末までか。


 結はもう踊れるはずなんだけど、一向に復帰する気配がないんだよねえ。


 私としてはなんとしても参加させたい。


 けれども、ですよ。


 本人にやる気がなきゃ意味がないしなあ。


 あーどう説得するかなあ。


「ほら、そろそろ練習再開するよ」


「「はーい」」


 立ち上がって立ち位置に戻っていく彼女たちを見つめながら、私の頭の中は結でいっぱいだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る