第7話 芽生えた感情

 無事に3次審査を終えた私たちは、今度は一緒に電車に乗った。


 そこで、

「ねぇ、お姉さん元気?」

 一番聞かれたくないことを聞かれた。


 私にお姉ちゃんがいたことをよく覚えていたなあ、嬉しいなあ。


 なんて思えない。


 だってお姉ちゃんは

「死んじゃった」

 それだけ言って、私は電車を降りた。


 自分の中でまだ整理がついていない姉の死を、どう伝えればいいのかわからなかったから。


 そのまま駅のホームのベンチに座ってずっと考えた。


 別に詳細に伝えなくたっていい。病気で死んだことにしたっていい。


 でも、光には私の全てを知ってほしかった。


 誰にも打ち明けられなかった苦しみを共有したかった。


 そして迎えた最終審査の日。


 また東京駅で迷っていた私を、光が見つけてくれて、事務所まで一緒に歩いた。


 前回のことがあったから光の方は気まずかったんだと思う。ほぼ無言だったし。


「ねぇ、今日この後時間ある?」


 オーディションを終えた私は、先に会場を出て待っていてくれた光に声をかけて、ファミリーレストランに入った。


 そこで全部話した。


 お姉ちゃんが韓国でアイドルをしていたこと。


 自殺してしまったこと。


 自殺した理由も。


「なんで話してくれたの?」


 重い話を聞かせてしまって申し訳ないと思う反面、漸く姉の死を他人に話せたことで私の心は少し軽くなった。


「なんでだろ……今まで誰にも話せなかったんだけどね」


 上手く言葉にできなくて歪に笑った私に、

「ずっと抱えているの、しんどかったでしょ。限界だったんだよ」

 優しく言葉をかけてくれた。


 そうだけど、違うよ。光だから話したんだよ。


 光じゃなきゃ話さなかったよ。


 同情されるのも、心配されるのも、もううんざりだったから。


 けれど、光にそう言ってもらえたのが嬉しくて、胸が温かくなって、泣き出した私を、彼女は無言で抱きしめてくれた。


 このときに、私は自覚したんだと思う。


 光に抱いている感情は友情ではなく、恋愛感情だと。

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