第4話 やりたいことは? 1/3

「なんかしたいことないの?」


 結が居候になってから数週間。


 1度も外出をしないまま、もうすぐ7月が終わろうとしています。


 いくらお医者さんから「絶対安静」を言い渡されているとはいえ、多少は歩かなきゃ、体力滅茶苦茶落ちちゃうんじゃないの。


 んー、でも結は体力オバケだからなあ。


 華やかだけど激しダンスが売りの花筏。


 他のメンバーがパフォーマンス後に肩を上下させている中で、結は軽く汗をかく程度。


 ちょっと体力落ちた方が、他のみんなとレベルが揃うのかな。


 いやいやいや、ダメダメダメ。


 結は圧倒的エースで絶対的センターなんだから。


 完璧じゃなきゃいけない。


 それは本人もわかっているはずで、だからこそ誰よりも練習を積んできた。


「ない」


「ん?……あぁ」


 別のことを考えていたせいで、一瞬なにに対しての「ない」なのかわからなかった。


「ないのかあ。うーん……折角の休みなんだから、遊びに行ってもいいと思うよ」


 いつ復帰するかは未定。


 数週間後復帰するかもしれないし、年内はもう活動しないかもしれない。


 どちらにせよ、きっと彼女がゆっくりと羽根を伸ばして休めるのは今だけだから。


 やりたいことを好きなだけやってほしい。


「怪我を理由に休んでるんだから、遊び回ったらまずいでしょ」


 ソファの上で足を抱えて、真っ黒な画面のTVを見つめながら、結は言った。


「あーそりゃそうか」


 ごもっともです。


 けどさあ……私もファンも、メンバーも活動休止の理由が怪我だけじゃないってわかってるよ。


 気づいてるんだよ。


 怪我する前から貴女のメンタルは限界を迎えていたって。


 3月に5枚目のシングルを発売して、歌番組で披露した後。


 一瞬だけど、メンバーに両脇を抱えられて立つ結の姿がカメラに映っていたから。


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