第3話 愛は少々重め

「ただいまー」


「遅かったわね」


「わっ」


 ビックリして思わず一歩後ずさってしまった。


 玄関のドアを開けたら、結が玄関口に座ってたんだもん。


 誰だってビックリするでしょうが。


 これが初犯じゃなくってもね。いつまでたっても慣れません。


 別に毎日こうやって待たれるわけじゃないし。


 不定期だし。


 こりゃーなんか独りで勝手に拗らせてんな。


 思い当たる節は……ない。


「今日はバイトがないから、ダンスサークルの練習に参加してくるって連絡したでしょ」


 靴を脱ぎながら言えば、

「にしても、遅い。遅すぎる」

 唇を尖らせて反論。


 異常に整った顔立ちで拗ねられると可愛いだよね。なんでも許したくなっちゃう。


 いやいやいやいや、待った。


「まだ20時だよ?」


「もう20時」


 シンデレラでも魔法がとけるのは0時じゃん。


 20時で遅いとか、小学生の門限ですか?


「ごめんって」


「……」


 あー頬を膨らませてるのも可愛い。破壊力が凄い。


 ファンのみなさんは知らないでしょう。貴方たちが『クールビューティ』と呼んでいるアイドルが、こんなに可愛いなんて。


 写真を撮って全世界に自慢したいです。


 しないけど。


「ごめんね?」


 あと、こんなにも重い愛を抱えてるなんて知らないでしょ。


 私が帰るの遅くなっただけで拗ねちゃうんだよ。


「ねぇ、結」


「……お腹空いた」


 わっしょい、可愛い!


 ツンっと斜め上を向いちゃってさー。言った言葉が「お腹空いた」だよ。


 惑星を一つ滅ぼせそうなぐらいの破壊力。


「了解、今すぐ作るから。なんかリクエストある? って言っても、冷蔵庫に食材がそんなに――」


「スクランブルエッグ」


「おーん」


 貴女、それ朝も食べたよね?


 洗面所で手を洗う私の背に抱き着いてく彼女をスルーして、二人羽織的な感じでリビングに向かえば、テーブルにはなにもない。


「今日はちゃんと食べたんだね。偉い偉い」


「子ども扱いしないでよ」


 頭を撫でてあげたら不満を言われました。


 ほっぺを肩に押しつけながら言われても、なんの説得力もないんですが。


「それじゃあ、いい子にしてた結のリクエストに応えますかあ」


「だから、子ども扱いしないでってば」


「はいはい」


 あー反応すべてが可愛い。愛おしい、尊い。


「よし、作るから離れてもらってもいい?」


「……」


 無視かーい。


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