第24話 めぐるの提案

 放課後になり、シノブは学校から少し離れたカフェまで来ていた。学校だと目立つとのことでめぐるが指定した店だったのだが雰囲気は悪くない。壮年のオーナーが経営するカフェで店内は程よく静かだ。


 こぽこぽとコーヒーを沸かしている音が耳に心地いい。心が休まるがシノブの心境は複雑だ。週末には有瀬との初デートが控えている中、他の女の子に呼び出されて応じている現状にやや後ろめたさがあった。


 カウンターで一人、シノブがため息を漏らしそうになったところへめぐるが店内へと入って来る。シノブはため息を呑みこんで手を振った。


「おまたせー、シノブくん」


 急いできたのかめぐるは手で顔を仰ぐ。アイスコーヒーを注文するとシノブの隣に腰掛けた。


「ああ、待ってたよ。めぐるさん」

「ちょっとシノブくん。そういうときはさー、全然待ってなかったよっていうもんじゃないかな」

「僕はそんな誰にでも気を持たせるような男じゃないよ」

「え? それ素で言ってる? 冗談?」


 苦笑いするめぐるにシノブは首を傾げる。だがこういう態度をされて振り返ってみると直近でも二件ほどやらかしている気がしてきた。


 あれは違う。結果的になってしまっただけでそういう意思はなかった。


 そう弁解したところで信じてはもらえないだろう。シノブは話を逸らすことにした。


「で、めぐるさん。今日の用件は? 例のお仕事の件なら昨日ちゃんと相手にも伝えてきたけど」

「早!? いや、ほんと。シノブくんの行動力はすごいね……」

「違うよ。僕はめんどくさいから先に終わらせときたいだけ」

「あはは。シノブくんらしいや」


 二人で会話をしているとめぐるの注文していたアイスコーヒーが届く。めぐるが一口で三分の一くらい飲むのを眺めつつ、シノブは本題へ入ることにした。


「で、今日の用件は?」

「そうそれ! シノブくん。修理依頼されてたやつさ。呪いのビデオテープなんだよね?」

「天見さん曰くそうらしいけど」

「これさー、先に除霊しとかない?」


 めぐるの提案にシノブは賛成とも反対ともとれない微妙な表情をする。呪いのビデオテープから呪いを取ったら、それはただの古臭いビデオテープだ。企画倒れというか付加価値がなくなるというか。


 とてもオカルト部の発言ではない。めぐるはそもそも半強制的にメンバー入りさせられたのだからそれも仕方ないが。


 一応、シノブはめぐるに反論した。


「いや、それは駄目じゃないか? 天見先輩の所有物だし」

「う……た、確かに天見先輩を怒らせたくないけど、でもただ除霊するだけだよ? 現実的に考えてお祓いしたところで中身が変わるかな? そもそも天見先輩は中身知らないんでしょ? きっとバレないと思うんだけどどうかな」

「確かに。それもそうだ。じゃあお祓いしよう」

「代わり身早!?」


 急なシノブの手の平返しにめぐるは面食らっている。シノブとしては通常運転だった。シノブはぐいと残っていたコーヒーを煽る。


「ふぅ……まぁ、僕は天見先輩には従ってるけど別に下僕じゃないからな。指示されたことはやるけど結果が変わんないならその過程で細工するくらいはいつものことだし。一応、形だけ反対しただけ」

「意外と強かだよね、シノブくんって……」


 めぐるは呆れながら自分のコーヒーも飲み干した。どうやらすぐに出るつもりらしい。シノブも荷物を用意してさっさと会計を済ませた。


 店を出てシノブが「じゃあ」と帰ろうとするとめぐるがその腕を掴んだ。


「ちょっとどこ行くの?」

「え? いや。用件はもう済んだから帰ろうかと……」

「何言ってるのさ。これからだよ」


 シノブは目を丸くする。これからとはどういう意味だ。その意味を問う前にめぐるが口を開く。


「これから一緒に神社行こ。もう予約は取ってあるから」


 ……やっぱり断っておくべきだった。


 まだ一日は終わりそうにない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る