第9話 当たるも八卦当たらぬも八卦
「さて、ヒカリちゃん。今回はオカルト部にどんな相談があるのかな」
そう言って天見はどしりと椅子に腰掛けた。向かい合わせにした机の対面にはヒカリを座らせている。机が足らないのでシノブと有瀬にはパイプ椅子だ。天見なりの上下関係の表現のようだが木製の椅子よりもパイプ椅子のほうが座り心地が良い。
一息ついているシノブを一瞥してからヒカリは口を開いた。
「ちょっと部活のほうで困ってることがあって、天見先輩に解決して欲しくて」
「部活? ヒカリって陸上部だったっけか。困ってることってなんだよ」
「うっさいノブ! これから説明するところよ!」
「ええ……そんな怒るなよ。なんか今日、僕への当たり強くないか?」
「ふん! 別に? いつも通りですけど?」
機嫌の悪い幼馴染にシノブはやれやれと首を振る。まぁ、ヒカリは昼休みからすでに虫の居所が悪そうだった。下手に口を挟むのはやめよう。
パイプ椅子の背もたれにもたれかかるシノブに有瀬はそっと話しかけてきた。
「シノブくん、ヒカリちゃんと仲悪いの?」
「いや別に仲悪くはないよ。ヒカリの機嫌が悪いだけ。僕はなんもしてないんだけどな……」
じろりとヒカリに睨まれてシノブは口をつぐむ。なんだ、何かしたのだろうか。思い当たる節はない。静かになるとヒカリは話を再開した。
「はぁ……で、その問題なんですけど。新入部員に占い好きの子がいて、その子の占いがやけに当たるんです」
「占いかー。どんな風に占うのかな。無難にタロットとか? はたまた
「私、天見先輩みたいに詳しくないので、えき? とかきゅーせい? とかわかんないですよ。うーん、特に道具を使ってる様子はなかったんですけど……なんか何にもない宙を掴んで、目を凝らしているみたいな? 何をやってるのかさっぱりで」
「……その子、名前わかる?」
「え? 確かマキちゃん……だったかな」
あの天見永依が人の名前を尋ねるとは珍しい。シノブが視線をやると、天見は表情には出ていないがどこか苦い顔をしているように思えた。
「ま、き……なるほど。マキね。うん。で、どんな占いの結果を出したのかな?」
「失せもの見つかる、されど無残……て感じだったかな。その占いをされた子が無くしたって言ってたグッズのアクリルスタンド? がバックの底から出てきたんですよ。それがバキバキになってて」
興味深い話だとシノブは口元に手を当てる。
アクリルスタンドは確かアニメのキャラとかが描かれたアクリル板のことだったか。ヒカリはアニメは見るがそういうグッズ系にはあまり興味がない。シノブは当然知っていた。
斜に構えるなら、そのアクリルスタンドを壊してしまった新入生の子が鞄の底に隠して占いってことにしたと言ったところだろうか。
シノブの仮説はすぐにヒカリに否定された。
「私は偶然とかかなって思ったんですけど、その子に占ってもらった子たちみんな占い通りの結果になって」
「へぇ、そりゃすごい話だな」
シノブは思わず感嘆の声を上げる。占いは当たるも八卦当たらぬも八卦だ。それが百発百中とは。シノブには有瀬の姿は見えないものの「へぇー」と声を上げ興味深々と言った様子だ。
「なるほど。ヒカリはその占いを止めさせたいというわけだな?」
「違うわよ。ノブは黙ってて」
「あ、はい……」
違うのか。シノブは肩を落として所在なさげにパイプ椅子に座り直した。「そう思うよねー」と有瀬が慰めるのが逆に惨めに感じる。そんなシノブは放って置きヒカリは本題へと入った。
「うちのエース……
「なるほどね。どんな結果だったのかな」
「災いアリ。破け、赤零れる……って」
ヒカリの一言でシノブは表情を強張らせる。破れ、赤零れるという表現。コレは皮膚と捉えて、怪我で赤い血を流すと考えるのが妥当だろう。いや流すではなく零れると言うあたりもっと悲惨という可能性もある。
災いアリというのも不穏だ。大きな怪我をするかもと思えば全力で走るのは恐怖でしかない。
どうにかしてあげたいが占いの結果は百発百中だという。避けるのは困難。
「ヒカリ! それいつ起きるとかは……わかってたら言うよな」
「うん。わからないのよ、ノブ。だから困ってるの。流石に気にし過ぎだとは思うんだけど……」
「いや、ヒカリちゃん。君の危惧は間違ってないよ。それはもう占いじゃなくてまじないになってるし」
「……まじないって、おまじない? それって同じ意味じゃないんですか?」
「全くの別物だよー有瀬ちゃん。占いは先の運勢とか吉凶を見るもの。まじないは呪いという字を使って
「いやいや天見先輩。呪術だなんて大げさな……」
「言霊は立派な呪術だよ? シノブくん」
天見はぴんと左手の指を立てる。
「悪いことが起きるかもしれない。悪いことがきっと起こる。みんなそうなんだから自分もそうなるに違いない。言われ続ければそう信じ込む。そう思うことが悪い結果を引き寄せるものだからね」
そう言って天見はもう片方の手でその指をぎゅっと掴む。運命に捕まったとでも言いたいのだろうか。
シノブは目を伏せた。
「じゃあ、その。なんですか。本当に言霊が存在するなら、彼女は災いを避けられないってことですか?」
「いや? 避けられるよ?」
さらっと答えた天見にシノブはがくんと肩を落とす。だったらそんな物々しい雰囲気を出さないで欲しい。
有瀬は期待に満ち満ちた声を上げる。
「え? 天見先輩、もしかして何か策が!」
「もちろんあるよー、でも避けられるっていうのはちょっと言い過ぎだったかも」
「……あの、天見先輩? それって一体」
ヒカリが怪訝そうな顔で天見に問いかけると天見はなんて事のないように言った。
「避けられないなら、こっちが先に災いを起こしちゃえばいいんだよ」
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