第28話 伝説の 女勇者が やってきた!

「ミスト=ポークレット騎士爵様、お初にお目にかかります」


 紳士的に片膝着いて作法らしいポーズを取る眼鏡熟女、いや眼鏡淑女、

 その姿は騎士団の正装を五段階くらいグレードアップさせたような姿だった、

 後ろにはリア=アベルクス先生、真面目な表情でそれを見つめている。


「……」

「あ、あの、えっと」


 話を続けず頭を下げたままの女性、

 クリーム色の長い髪を縛っている姿だ……

 待っても彼女から言葉の続きが出てこない、

 どうしていいかわからず黙り込んでしまった僕にソフィーさんが耳打ちする。


「ここは『ご苦労、名乗ることを許す』と言って下さい」

「あっはい……ごく、ろう!名乗るのを、許し申す!」

「ぷっ」


 あ、ベルルちゃんがちょっと笑っちゃった!


「ありがとうございます、アメリア=アベルクスと申します」

「アベルクス、ってアベルクス先生の?!」

「はい、リアの伯母にあたります、今回はお呼び付けありがとうございます」


 僕が直接呼んだ覚えないのに、と思ったがアベルクス先生がウンウン頷いている。


「う、うむ、その、家庭教師、なのだな」

「ぷぷっ」


 カチコチした領主気取りの僕の声にまた笑うベルルちゃん!

 だってこんな風にすっごい年上な女性にかしこまれたら、どうしていいか……


「はい、姪のリアから騎士爵様に何でも教えるよう言いつけられております」

「そ、そうか、よろしく頼んだ……ぞっ!と」

「ぷぷぷぷぷっ!」


 とうとう笑いをこらえる気すらなくなったのかベルルちゃんは!

 と思っていると今度は両膝を着き、頭を、額を床に着けるアメリア=アベルクスさん、

 眼鏡が汚れないかちょっと心配。


「……このたびはこのわたくしめの命をお救いいただき、感謝の念に堪えません」

「え?え?え?」

「この頂戴した残りの生命、全身全霊を賭けて尽くさせていただきますゆえ、何卒お願い申し上げます」


 いったい何が、どうなっているの?

 前情報が無いから訳がわからない、と思っていたらソフィーさんがまた耳打ちを。


「ここは『わかった、期待しているぞ』と言うと終わります」

「!!……ワカッタ、キタイシテオルゾ」

「なんでカタコト、ぷぷぷっ!」


 あーベルルちゃんのツッコミちょっとありがたい。


「ははっ、ありがとうございます、それではこれから準備がありますゆえ、一旦失礼させていただきます」

「はっ、はい、よきにはからえっ」


 立ち上がると眼鏡をクイッと直し、

 深々と一礼して出て行った……。


「なんですのもうミスト様!」


 遠慮なくぺしぺし僕の肩を叩いてきたベルルちゃん、

 結局この堅苦しい変なご対面は何だったんだよ……

 アベルクス先生は神妙な面持ちのままついていっちゃったし。


「ミストくん」

「はい、ソフィーさん」

「十二点かな」

「ええっ、ひょっとして今の、テスト?!」

「いえ、普通の挨拶よ、説明はリアさんがしたいそうだから」


 そう言って居間から出て行くソフィーさん、

 ベルルちゃんも笑いながらついていっちゃった、

 なんなんだよもう、とおもっているとアベルクス先生がひとりでやってきた。


「すまないミスト、まず伯母上の事だが、わかっているな?」

「えっ、何を、ですか?」

「勇者ということは」

「ええっ、勇者なんですか?!」

「まずはそこからか……」


 なぜか天を仰いだアベルクス先生。


「その、アベルクス先生」

「今後の先生は伯母上だ、これからは私はリアと呼んでくれ」

「そんな!別にそこまで親しい間柄でもないのに」

「……悲しい事を言わないでくれ、頼む、それとも一度抱い……いやまだ早いか」

「な、何の事ですか急に」


 綺麗なクリーム色の髪をいじりはじめた先生。


「私は学院の教師はもう辞めている、それでも先生と呼びたいのであれば、

 伯母上と混同せぬようリアと呼べ、良いな?」

「はいアベルクス先生、改めリア先生」

「よろしい、この国の十二英雄は覚えているか?」

「あ、聞いた事はあります、でも忘れてます」

「十二年前、国の北西国境の森から魔物が大量発生したのと同時に、

 ガラント帝国が侵攻してきた魔ガラ戦争だ」


 確か半年以上にも及ぶ大変な戦争で、

 魔物とガラント軍を食い止めた功労者十二人がそう呼ばれていた、はず。


「確か二、三人しか生き残ってないんじゃありませんでしたっけ」

「そうだ、しかもその二人は重症のまま療養中、あとひとりは行方不明ということになっている」

「ええっとじゃあ病気療養中だったのが」

「そうだ伯母上だ、ソフィーとベルルふたりの治癒魔法で完治してもらった」

「それであんな事を!僕、関係ないのに」


 首を左右に振るアベルクス先生改めリア先生。


「ふたりの主人はミストだ、形上はミストの許可、命令で行った事になっている」

「そうなんですか、その流れでこの変な儀式みたいなことに」

「本当なら伯母上は勇者爵という騎士爵の上を貰っていてな、ミスト、君より上の立場なんだ」

「えええええじゃあ僕が頭を下げないと、ひょっとしてこれから?」

「それは不要だ、さっきのは命を助けてもらった者としての感謝だからな」


 良かった、あの人絶対怖そうだもん。


「私からもあらためて礼を言わせてくれ、ミスト、感謝する」

「わわわアベ……リア先生までそんな頭を下げないでください!」

「それでだ、今日からミストの家庭教師を伯母上がやってくれる」

「つまり、伝説の女勇者様が?!ひょっとしてそれが治療の条件だったとか?」

「治療の対価はまた別に支払う事になっているが、それはまあ追々だな、とにかくだ」


 僕の両肩に手をやり、見つめてくるリア先生、顔が近い!


「……伯母上は私の命の恩人のようなもので、掛け替えのない親以上の存在だ」

「はいぃ」

「よろしく頼む、と同時に家庭教師としてはミストは、

 伯母上に言われた事は何でも聞くように、いいな?

「は、はいっ!」

「ソフィーもベルルも承知済みだ、ミストの教育全般も任せてある、

 何もかも全てだ、全てにおいて決して逆らうな、いいな」


 真面目に念を押された、これもちょっと怖い、でもちょっと良い匂いが。


「わかりました、何でも言う通りに、しますっ!」

「うむ、三か月後の再試験に受かるように、私も手伝うからな」

「ありがとうございます、心強いです」


 なぜかそっと僕の頬を撫でたリア先生、

 表情が急にやわらかく、やさしくなったかと思うと、

 ゆっくりと顔を近づけておでこにキスしてくれた!


「な、なな、ななな」

「そんなに驚くな、あらためて感謝の気持ちだ」

「なんでリア先生が!」

「それもまた追々、な」

「おいおいって、おいおいって!」


 クリーム色の髪をなびかせて、またあとで、という感じの仕草で出て行った先生……

 いったいぜんたい何だったんだろう。


(追々というよりも、オイオイって感じだよ……)


 年上の元教師にふいにキスされ困惑する

                    だめ貴族だもの。 ミスト

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