第二章 騎士爵から準男爵就任へ編
第27話 どうする?どうなる?今後のフォレチトンと僕
ソフィーさんとベルルちゃんが帰ってきてから二週間が経った、
二人はというと、今日も朝寝坊で僕と一緒にベッドの上だ、
本当にぐっすりすやすや眠っていたソフィーさんがやっと目を覚ました、寝起きも気持ち良さそう。
「ふぁーーーーっ、おはようございますミストくん」
「おはよう、ソフィーさん」
「おはようございますソフィーお姉様、もうすっかり日が昇ってますわ」
先に起きていたベルルちゃんも朝食より早くケーキを食べる始末、
新しい日常が始まったと思ったらそこには『怠惰』のふた文字が待っていた。
コン、コンッ
「失礼いたします、おはようございます」
「皆さま起きられたようですので朝食をお持ちしました」
わざわざ寝室まで持ってきてくれた無表情なメイドふたり、
そう、アベルクス先生が言っていたウチに来る新しいメイドとは、
カジーラのチュニビッフィ伯爵家に一年半スパイとして潜り込んでいたふたりだった。
「ありがとう、キリィさん、モリィさん、良い匂いだね」
「ご主人様に喜んでいただけるよう真心を込めて作らせていただきました」
「こちらに簡易テーブルを作らせていただきますね」
ベッドに座ったまま食べられるように準備してくれている。
キリィとモリィ、これがふたりにつけた新しい名前だ、僕がつけた、
ふたりは城から秘密裏に送り込まれていた凄腕のスパイしかもアサシンらしく、
カジーラの麻薬草事件以前にも様々な所へ国のために潜り込んで、いろんな事件の証拠を掴み、
功績を数々積み上げてきたらしい、その毎回毎回にちがう名前をつけていたんだとか。
「その、変な名前じゃなかったかな、二週間経ったけど」
「いえ光栄です、ご主人様につけていただいた名前が私たちの名前ですから不自然さは感じません」
「少なくとも以前の『アリー』『メリー』その前の『フェアリ』『ピクシ』よりもは気に入っております」
とはいえ無表情で言われるとなぁ……
ソフィーさんとベルルちゃんはもうすっかり眠気が覚めたみたいだ。
「長く幸せなお休みだったー、今まで一番眠った期間でした」
「ミスト様、もしやたった二週間でもう、わたくしたちに飽きたりしていませんわよね?」
「そんなことないよ!ただ、ふたりがこんなになまけてたのは意外だった」
それまでのおそらくひっきりなしにチュニビ・カジーラそして戻った王都で働いていた期間・労力を考えると、
二週間のお休みなんて少ないと言っても過言ではないかもしれない、が、それでもだらけすぎに見えた。
(ベルルちゃんの太眉も、間近で見飽きるくらいに見ちゃったなぁ)
でも夜は夜でふたりを抱き飽きる事なんてなかったし、まだまだ愛し合いたい気持ちはあるけれど、
さすがに二週間も実質なんにもしないのは僕が罪悪感に押しつぶされそうになってしまう。
朝食を食べながら考える、そろそろ、そろそろ何かしなきゃ、でも何をどうすればいいんだろう?
「さてミストくん」
「はいソフィーさん」
「先ほど私が『長く幸せなお休みだった』と言った通り、今日からお仕事です」
「あ!そうか、うん、僕もそろそろって思ってた」
「ミスト様、わたくしどもの休日につきあっていただいて、感謝ですわ」
うん、だらけすぎてふたりとも少しぽっちゃりしたが、
僕もそれにつきあって少しふっくらになったのは事実だ。
「そんなミストくんはいよいよ、今日からする事があります」
「どんな仕事ですか!」
「んーまずは勉強ね、というのも学院でGクラス卒業のミストくんは、このままでは、なれても男爵止まりなの」
「そうですわ、高い爵位を目指すためにも、ミスト様には再試験を受けていただきたいのですわ」
「えっ、再試験?!そ、そんなのあるの?できるの?卒業したのに!」
あ、びっくりしてパンのバケットを落としかけちゃった、
モリィさんがすかさず戻してくれた、このふたりの無表情メイド、怖いくらい有能なんだよな。
「そもそもミストくんは気付いてないかも知れないけど、学院で色々と不利を、不利益を受けていたの」
「うそっ、そうだったの?!」
「ミスト様は本来もっと優遇されるはずでしたの、そもそも学院の入学費用は補助が出るはずでしたわ」
「ええっ、だって入学のお金って、エスリンちゃんを奴隷としてチュニビッフィ伯爵家に売らないといけなかった程で」
「中央へ、国へ申請すれば、ミストくんに出るはずだったお金を、わざと申請しない事で嫌がらせをしたかったのでしょう、伯爵家か辺境伯家が」
じゃあエスリンちゃんは奪われ損だったって事か?!
「そんな、でもだったら父上が申請すれば」
「準男爵は名誉貴族であり貴族本来の手続きはできないのよ、ミストくん習わなかった?」
「あ、そうか、それで平民と同じ扱いの入学だったって事?」
「そうですわ、ミスト様は本来、エスリンさんと一緒に入学できるはずだったのですわ、従者一名分も補助されますから」
「なんてことだ……じゃあ入れたクラスもEとかDとか?!」
そこは首をかしげるふたり、そりゃそうか成績までは買えない。
「他にも細かい理由はいくつかあるんだけれど、ミストくんは卒業テストやり直しの権利が認められているの」
「いつのまに!僕そんな権利の申し込み、出してない!」
「学院としての判断よ、詳しい話は知りたいなら再テストのとき学院で聞きましょう」
うん、多分その時はテストで手いっぱいで、終わったらどうでもよくなると思う。
「ミスト様、お忘れですか?わたくし、卒業式で教える立場になると言っていたのを」
「あ、ベルルちゃん確かにそんな事を、言われてみれば!」
「あれはミスト様の再テストを想定してですわ、もちろん学院に非常勤教師の籍も置いてありますの」
色々と先回りされ過ぎてて怖い。
「それでねミストくん、再テストもそうなんだけど、学院の勉強を受け直して欲しいの」
「それは一年からって事ですか?」
「そうね、もっと言うとその前の、フォレチトンの学校から」
「さ、さすがにそのレベルは大丈夫、だと思いたい」
「だったら復習、確認でいいから……そこで家庭教師を用意したのだけれど、その話の前に」
粗方食べ終わった簡易テーブルの上にフォレチトンの地図を広げるソフィーさん。
「これ、もう二十年前の古い地図なんですって」
「はあ、でも変わりないんじゃ」
「最新の情報を書き換えて提出せよというのが冒険者ギルドからのクエストよ」
「なんでまたそんなのが」
「ミストくんが貰った爵位は何かしら?」
大層に飾ってある騎士爵のバッジに目をやる。
「あー、でもそれってもう貰ってるから、無理して何かしなくても」
「ミストくんは貴族の集まりで騎士爵の話になった時、何もしないで貰えたって話せるの?」
「う、それは、知らない間に手紙渡してたら貰えたとか、ソフィーさんたちが多分裏で手を、とかは言えないかな」
「そうですわ、ミスト様がそんな話をし始めたら、このわたくし、ベルル=ポークレットが話を逸らしてさしあげますわ」
「気まずいですね、だ、だからって今更無理して何かしなくても……」
ベルルちゃんが口にヨーグルトがついているので拭いてあげる、
僕なんかがやってあげただけなのに嬉しそうな表情、ゴロゴロと寄り添ってくる、
真面目な話の最中ですよと言いたげに咳払いひとつして、話を続けるソフィーさん。
「話を戻すと、本当なら学院ではやらなければいけない実習が山ほどあるのを、
ミストくんは免除というか、スルーされてたのわかるよね?」
「ええっと、例えば学院に騎士団長が戦闘訓練の視察に来たとき、
僕らGクラスは休みというか終わった後の会場の掃除係だった」
「そうね、でもそういう本来やらなければいけない積み重ねがないと、
再テストで合格しても上のクラスの卒業扱いにはならないのよ」
「あ!それで僕らGクラスが登録だけで終わった冒険者ギルドの実習を、
あらためてやらないといけないっていう」
「その通りよ、フォレチトン周囲の森を二十年ぶりに調査し、詳しい地形や魔物の生態、
ダンジョンの位置など把握して詳細な地図を作る、その依頼をこなせばいいわ、ちなみに依頼主はギルドと国共同よ」
大変そうだけど、ちょっとワクワクする。
「ミスト様、ここフォレチトンでするあらためての学院ミッションは、
一応教師の立場にあるわたくしがちゃんと査定して報告してさしあげますわ」
「ええっと、結局僕は最終的にどうすれば」
「再テストは次の、春季が終わる夏季休み前までに受けないといけませんわ」
「ミストくんは本当はCクラス卒業くらい欲しいけど、Dクラスの卒業テスト合格にプラスして、
こういう本来Cクラス以上がちゃんとすべき実習をいっぱいつけて、Cクラス卒業扱いにしてもらおうと考えてるの」
「それをちゃんとやれば、Gクラス卒業では与えてもらえない、もっと上の爵位になる権利が発生すると」
ベルルちゃん、いやベルル先生が爵位一覧表を出してきた、
上から大公爵(国王)、公爵、侯爵、辺境伯、伯爵、子爵、男爵、隙間があって準男爵、騎士爵だ。
「ミスト様はいま一番下のここですわ、Cクラス卒業扱いでこの辺境伯という所まで行けますわ」
「そして辺境伯っていうのはこの国では色々と便利な位置にあるの、特殊な爵位だから条件さえ合えば貰い易いのよ」
「条件って?」
「この国においての辺境伯は地方で重要な領地、広すぎてまとめるのが大変な領地の貴族とかが貰えるの」
「そうですわ、つまりここフォレチトンの価値がすこぶる高いと認められれば、人口がそれほどでなくとも辺境伯にはなれますの」
金髪縦ロールとおっきいおっきい胸を揺らして説明するベルルちゃん、
聖教会の聖女様なのに見た目だけはもう立派な貴族のお嬢様だ、僕にはまるで釣り合わない程の。
「もう、今はわたくしに甘える時間ではありませんわ?」
「あ、ごめん、変な所を変な目で見ちゃって」
「ミスト様の視線の先に変な所などありませんわ?」
「はいはい、ミストくんには爵位のために冒険者ギルドでランクを上げてもらうだけじゃなく、
男爵以上の貴族になった時、『騎士爵持ってるみたいだけれど武勇伝あるのか』みたいなのをパーティーで聞かれたとき、
きちんと、多少盛ってでも、『さすがミスト=ポークレットなんとか爵』と思わせるような実績を積んでもらうの」
「でもそれって騎士爵を貰った後の話ですよね?いいのかなあ」
口に指を立てて左右に振るソフィーさん。
「そこは重要じゃないわ、事実でさえあれば上の爵位の方に話した時、
辺境伯に推薦してもらえるきっかけや理由のひとつになるから」
「うわあ、面倒くさいですね」
「これが政治力というものよ、少しちがうけど」
「ベルルちゃん、ソフィーさんの言ってる事わかる?」
「わかりますわ、そして重要な辺境伯は侯爵以上と同じように側室を持てますの、正妻合わせて四人まで」
そこまで行ってやっと第四夫人にエスリンちゃんを迎え入れられるのか、
第三夫人が誰だかまだ教えてもらえてないけど。
「ミストくんが来年春の、私たちとの正式な結婚式までに、最低でも辺境伯内定まで行くのが目標、いえ、目的地よ」
「ミスト様がそのためにここフォレチトンも栄えさせなければなりませんの、そこはまた別のお話ですわ」
「そうね、今は三か月後の学院での再卒業テストに向けて、今日から勉強勉強また勉強、勉強休みにフォレチトン調査よ」
「それって休日が無いんじゃ」
「今日まで沢山取ったでしょう?お昼過ぎにはリアさんが家庭教師を連れてくるわ、頑張ってね、ミストくん」
家庭教師……どんな人だろう、怖い人じゃないといいな……。
まだ見ぬ鬼教師に想像で怯える
だめ貴族だもの。 ミスト
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