第29話 領主(予定者)改造計画

 結局その日は新任家庭教師、

 女勇者アメリア先生の長旅の疲れをさすがに考慮して、

 今後のスケジュールを決めるだけにした、そんな昼下がり。


「では朝九時より剣術の練習、領主様の体力を考え休み休みやりましょう、

 正午からは昼食を含めたマナーの訓練、休憩を挟んで午後二時から三時間、

 座学の復習をしましょう、午後五時には終了ですが週末には模擬筆記試験があります」

「さ、最初に朝から運動ですか」

「その方が一日健康に過ごせますよ、昼食も美味しく感じるはずです」


 なぜか学院の教師服に着替えてきたアメリア先生、

 こうあらためて見ても凄い美熟女、顔のしわが少し年齢を感じさせる以外は、

 本当に美しい、スタイル抜群の美剣士……女勇者さまだから当然か。


「それと早朝は領主さまのお庭をお借り致しますので」

「え、何かするの?」

「はい、明日よりフォレチトンに滞在中の騎士団の部隊に稽古を」

「あれ?もう帰ったんじゃなかったっけ」

「ミストは知らぬだろうが新たな部隊が来ている、再来週まで第九部隊だ」


 最後に言ったのはリア先生、

 なるほどそれで副団長が来てるのかと納得する。


「伯母上に剣術の稽古をつけて欲しい兵士は腐る程いるからな、

 このチャンスを逃す者はおるまいて、私とてそれは同じだ」

「リア先生もですか」

「ああ、それだけじゃない、伯母上は学問の知識も完璧だぞ?

 唯一、闘病していた十二年の歴史だけが抜け落ちているが……」

「それももう覚えてきたわ、だから知りたい事は何でも聞いて頂戴」

「あ、はい、そ、それでしたら、その、アメリアさんの、ねん……れ……ぃ」


 さすがに怒られるかな?と思ったが眼鏡をクイッと持ち上げた。


「四十一よ」

「そ、それは、若く見えますね」

「……褒め言葉としていただいておくわ」

「あと、僕まだ領主でもなんでもないんですが」

「次期領主様の『次期』を省略したまでで大した意味はないわ、ちなみに私は独身よ」


 そっか独身かあ、

 でもこの絶対おっかないタイプの女勇者様に、

 年齢を聞いたとはいえ、どうこうする気は……!


「ところで領主様、愛人に興味はおありかしら?」

「え?あ、あああ、愛人?」

「複数の妻を持つ貴族は正室側室合わせて四人で足りない場合、愛人を持ったりするわ」

「で、でもそれって絶対世継ぎが必要な公爵家とかの話なんじゃ」

「公爵家と同等に扱われるクラスの辺境伯もよ、これは国王も認める正式な愛人制度よ」


 ささっとリア先生も説明に加わる。


「若くして力のある貴族、特に大きい土地の領主は愛人を囲って男の子の世継ぎを早急に確保したがるんだ、

 男の子を産んだ愛人を『愛人筆頭』という全ての愛人を束ねる長という事にして、それは事実上、

 五番目の妻として扱われる、遺産配分にも含まれる存在になる、貰える割合はそれ程ではないがな」

「ええ、建前上は愛人全員分の遺産を受け取って分配する係という事になってはいるけど、

 人によっては正妻の次の地位に扱われている愛人も居るらしいわ、十二年以上前の情報だけれども」


 あーそれって悪女が乗っ取ろうと暗躍するやつでは。


「そして愛人の枠には限りがある、最大四人までだ、それでも足りなければ準愛人としてもう四人追加できる」

「つまり、正妻側室合わせて四人、さらに八人、合計十二人も、はべらせられると」

「側に置けるという意味ではそうだな、正式な遺産配分の対象者は五人になるが」

「領主様は本当に頑張れば、辺境伯として一番になれば、それだけの愛人を手にできるでしょう」

「そんな、頑張ればハーレムうっはうはだよみたいな話されても、僕はソフィーさんとベルルちゃん、

 あとエスリンちゃんさえいれば、あ、もうひとり来るんだっけ、とにかくそれで手いっぱいでいいです!」


 なぜか顔を見合わせため息をつくリア先生とアメリア先生。


「領主さま、そこまで堅く考える必要ありませんわ、

 実際の所、愛人に設定している女性はどんな人が多いかわかるかしら?」

「ええっと、関係を強くしたい貴族の娘、とか?」

「いいえ、メイドよ、お手付きしても問題のないようにしているの」

「ああ!メイドに手を出して奥さんに引っ叩かれるとか、たまに良くあるっぽい!」

「でもあらかじめ愛人っていう事にしておけば問題ないのよ」


 つまりアメリア先生は、僕にメイドに手を出せと?!


「ミスト、ミストがどう思っているか私にはわからないが、

 少なくともソフィーやベルルは事前に申請すれば愛人は許してくれるだろう」

「そ、そうなんですか」

「むしろ喜ぶかも知れないぞ、ミストの妻という部隊の下級兵が出来る訳だからな」


 そ、その物の例え方!さすが騎士団副団長とでも言うべきなのか。さすがか?!


「領主様にはそういう愛人も囲えるような、豪傑で優しい人物になって欲しいと思っているわ」

「僕には合わなさそうな」

「合うさ、地位がひとを作るという言葉もあるくらいだからな」


 勝手に改造されても困るんですけれども!


「すみません、先生方、なんでそんな話になったんでしたっけ」

「ミストが伯母上の年齢を聞いたからだと思うが」

「あ!べべべ別に愛人にしたいから言った訳では」

「あら残念」

「へ?!」


 残念って!あっそうか、お世辞というかフォローみたいなもの?いやリップサービス?


「とにかく領主様には辺境伯にまで成れる人物に変わっていただくわ」

「はい、わかりました」

「想像していると思うが伯母上は本当に厳しい、だがそれがうらやましくも思う、覚悟した方が良いぞ」


 ですよね……でも感謝しないと、

 三年間の学院でちゃんとまともに、

 親身になって教えてくれた先生って何人いただろうか?

 最終日以外、素振りしかさせてくれなかったリア先生でさえ、

 今となっては一番マシな先生だったとすら思える。次にイジュー先生か。


「私に任せてちょうだい領主様、三か月の予定が終わっても、

 お願いされればもっともっと良く領主様を改良してさしあげますわ」

「そ、その時がきたら、また、考えます」

「伯母上は本来なら城でも引く手あまたなはずだったのだ、

 それをフォレチトンに骨を埋める気で来てくれている」

「そうなんですか?!もったいない!」


 僕が言っちゃっていいのかって思うけど言っちゃった。


「ええ、一生尽くすと誓った通りよ」

「ミスト、これがどういう事かわかるか、伯母上を慕う兵士は多い、

 実は伯母上は倒れる前、城の対魔物特殊部隊の隊長だったのだ、

 その伝説は今でも城内の兵士に語り継がれている、その伝説がここに居るのだ」

「つまり、そんな凄い人と一緒にやりたいという兵士さんが、ここへ?」


 うんうん頷いているリア先生、

 よくそんな勇者様を引っ張ってこれたもんだ。


「そのような状況ゆえ、伯母上もどうしても手が離せない時があるかも知れない、

 病み上がりゆえ体調も崩すであろう、その時は私かベルルが伯母上の代理で面倒を見るから安心してくれ」

「あら、私はそんなヤワな体調管理はしないわ」

「もしもの時ですよ伯母上、伯母上が元気になって皆、喜んでいるのはわかっているでしょう」


 確かに病み上がりにしては身体を仕上げてきた感じはする、四十一歳にしては。


「ではミスト、伯母上にたっぷり改造されて一人前の貴族に、領主になってくれ、

 ソフィーもベルルもそれを望んでいる」

「領主様、とにかく時間がないのよ、テストまで三か月、結婚式までは十一か月よ」

「がんばります!身を任せれば何とかしてくれるんですよね、この身を委ねます!」


 よーし、頑張るぞー!


 意気込みだけは一人前

            だめ貴族だもの。 ミスト



「……伯母上、脈はありそうですね」

「ええリア、脈ありね」 

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