第12話 最高の一日


 お昼はソフィーさんがオーク肉をお婆ちゃんズの前でさばいて見せたり、

 家の中の細かい壊れてる部分を魔法で直してもらったりした、

 お風呂の温水化やトイレの流水関係は本当に助かった、

 魔石はあるものの、そこに魔力を注入できる人が我が家では母上だけだらしく、

 ずっと魔石に頼らない手作業でやってたのがようやくまともになった、良かった。

 そして僕は母上とも、ようやく話ができた。


「母上、王都の学院へ進学し、無事卒業して戻ってこられました!」

「おかえりなさい……ねえ、もっとミストちゃんの顔をよく見せて……立派になったわね」

「はい、明日には十五歳になります、年齢的にも成人です」


 顔をぺたぺた触られる、こうやってちゃんと動いてる母上を見るのはいつぶりだろうか?

 自然と涙がこぼれる、僕も母さんも……ぎゅっ、と抱きしめてくれるが、その腕はまだ弱々しい。


「早く元気になってください、今日はソフィーさんがオークを狩ってきてくれました」

「まあ嬉しいわ、あまり食べられないでしょうけど……そうそう、ミストにお礼を言うわ、素敵なお嫁さんを連れて来てくれて、ありがとう」

「いやそんな、正直、僕は何もしてなくて」

「本当、これ夢の中なんじゃないかってずっと思っているわ、死ぬ間際に、命尽きる直前に見ている幻なんじゃないかって」

「あー、ソフィーさんにプロポーズを受けてもらった時もそんな感じでした、僕もずっとこれ夢なんじゃないかって」


 そうだ、母上ならわかるかも知れない。


「それで母上、そのソフィーさんの事なんだけど」

「なあに?」

「どうしてソフィーさんは僕の事が、好きなんでしょう」

「ふふふ、それ、直接聞いた?」

「はい、今は言えないって」


 母上の笑顔に、さらに胸が熱くなってくる。


「まず、人を好きになるのに理由はいらないわ」

「でも理由はあるみたいで」

「それが何であっても気にならないくらい愛し合えば良いのよ、あの子はその信頼に値する子よ?」

「こんなに簡単にあんな最高の聖女様を手に入れたら、逆にいつ捨てられるかって……」

「我儘言って良いのよ?夫婦ってそういうものよ、あの子はそれも含めて受け入れてくれるわ」


 いったい母上とソフィーさんはどんな話をしたんだろう?

 すでに新しい娘に心奪われてるっぽい、大病を回復させてもらっただけで十分か。


「ソフィーさんは僕を好きな理由、言ってました?」

「さあ、どうかしらね」

「うーーーん、なにかもどかしいっていうかむずがゆいっていうか」

「ミストはソフィーさんのどこが好き?」

「全部です!何もかもです!」


 それを聞いた母上が僕の後ろに目を向ける、

 そこには顔を紅らめたソフィーさんが立っていた!

 お湯を貼った桶を持っている事から、身体を拭きに来てくれたんだろうけど……


「い、いい、いつから?!」

「ふふふ、いつからでしょうね」

「もう、お義母様ったら」



 その日の夕食は家族全員揃ってになった、

 生まれて初めて食卓に家族三人が揃い座って食べる、

 いや四人か、母さんを抱えてここまで運んでくれたソフィーさん……

 本当は僕がしないといけなかったのに。


「では、我が息子の婚約と、ポークレット家の輝かしい未来に向けて、乾杯!」

「「「かんぱ~い!!!」」」


 父さんが珍しくエールをごくごく呑んでいる、

 母さんはまだ水だが両手でコップを掴んでちびちび飲む、

 僕とソフィーさんは果実汁を飲む、うん、おいしい。


「お義父様、次を注がせてくださいませ」

「おおすまんな息子の嫁よ、いや、我が娘(予定)よ!」

「お義母様、オーク肉を食べやすいように切り分けたつもりでしたが、大きさはいかがでしたか?」

「ええ、丁度良いわ、それにやわらかくって美味しい、元気が出ちゃう」

「嬉しいです、ゆっくり食べてくださいね、スープも自信作ですので是非」


 ソフィーさんがやたら気を使ってくれている、

 メイドお婆ちゃんズは立ってるだけで良い感じになっちゃってるな、邪魔しない感じか、

 と思ってたら僕のコップに新しい果実汁をせかせか婆ちゃんの方が注いでくれた、さて肉の味は……?


「ん……このオーク肉、美味い!オークの肉ってこんなに美味しかったっけ?」

「しめる速度と浄化魔法により後から血抜きをしても臭みが出ないようにしたからなのよ」

「へー、ソフィーさんそういうのも上手なんだ」

「嫁ぐ以上は自分で料理も完璧にできないとね、例え嫁ぎ先が貴族であっても」

「うちみたいな準男爵家だと本当に助かるよ……このサラダも美味しい!」


 父上もご機嫌で食べていて早くも酔いはじめている、

 そんな姿を見る母上も幸せそう、そしてその母上を見る僕も幸せそうな顔をしている事だろう、

 ソフィーさんを見るとにこにこしている、僕らを見て満足してくれている感じだ。


「エスメ、本当にエスメなのだな、本当に本当にエスメは元気になったのだな」

「はいローガンさん、今日からは毎日、今までの分も、何もかもを取り戻していきたいわ」

「……さん呼びは昔のままなのだな、だがそれが良い、うんうん、これから、これから」


 あー夫婦の幸せな空間になってる、いいなあ、そして何かむずがゆい、

 と思ったら隣に座っているソフィーさんが僕の腕をきゅっ、と握って微笑んだ、

 ああ、僕らも夫婦になるんだ、そして、幸せになるんだ、ポークレット家の全員、みんなで、これから……。


(……幸せだなあ、今日は最高の一日だぁ)


感慨深く思いながら僕は一家団らんを楽しんだ。



 そしてその夜更け、僕の部屋……


「ミストくん、もう日付が変わったね、十五歳の誕生日おめでとう」

「あ、ああ、ありが、ととととう」


 純白の下着姿、道中に選ばされたやつだけど着てもらうとやはり凄い、

 いつもは白い肌が薄紅色に染まって美しさをさらに増し、触れて良いのか躊躇させる、

 とても僕が今日、同い年になったとは思えない色っぽさだ、見とれて僕は静かに息をのむ。


「これから色々準備があって結婚式はまだだけど、私はもうミストくんのモノだから……」

「そ、その、ど、どうしていいいか」

「もう真っ赤になって……そうね私に任せて、初めてだけどがんばるね、でも……」

「で、でも?」

「あらためてちゃんと、ミストくんの気持ち、もう一度、聞かせて欲しいな」


 目を潤ませて、ねだるような表情……


「ソフィーさん」

「はい」

「好きです、愛しています」

「私もよ、ミストくん」

「そそそそそソフィーさんっっ!!」


 こうしてこの夜、僕とソフィーさんは結ばれたのだった……。


  明日どんな事が起きるかも知らずに

                    だめ貴族だもの。 ミスト

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