第13話 悪夢、再び

 翌朝、朝日の眩しさに目が覚めると隣にソファーさんはいなかった、

 夢うつつなまま周りを見回すが部屋の中にはどこにも姿はない、

 ゆうべ確かにソフィーさんはいた、あの感触が幻な訳がない。


(もう朝食の準備かな?あれ?外に馬車が……?)


 眠い目をこすりながら見る、昨日帰った商団が一台だけ戻ってきた?

 と思ったがうっすら見覚えのある馬車、見た事のある光景だ、

 父上と二人のお婆さんメイドが見送くる中、只ならぬ雰囲気に囲まれ馬車に乗せられるソフィーさん、

 連れて行こうとしているのはカジーラ領主の息子、ルーベン!

 これはエスリンが連れ去られた時と、まったく同じだ!


「ソフィー!どこ行くの!!」


 慌てて寝間着のまま馬車まで駆けよると、ルーベンに蹴り飛ばされた!


「わざわざ俺のために聖女様を連れて来てくれてありがとよ!」

「そ、そんなぁ」

「コイツはもう俺の嫁にするから、今後一切近づくな!」

「なんで!!」

「お前、俺の妹にしたことは、一生消えないんだよ!!」


 もうその言葉には、ひるまない!


「あれは嘘だ!アリアの狂言だ!それが事実だ!」

「あのなあ、お前の意見なんて関係ねえんだよ!!」

「ソフィーさんを返せ!!」


 馬車へ突っ込もうとするも再び蹴り飛ばされる!

 駄目だ僕、まるで成長していない……


「そうそう、代わりと言っちゃあなんだが、近いうちにお前からいただいたクソ奴隷を返してやるよ!」

「エ……エスリンのことかーー!!」

「どうなって帰ってくるか、楽しみにしてろよ!じゃあな!」


 馬車が閉められる直前、『隷属の首輪』をはめられながらも、はっきりした声でソフィーさんはこう言った。


「必ず帰ってくるから、待ってて」


 扉が閉められ、目の前で馬車が去って行く……

 ソフィーさん、なぜ逃げなかったんだ、逃げられない何かがあるのか?

 父上も暗い表情、お婆さんメイドふたりは無表情だ。


「くそっ!くそっ!くそっ!」


 地面を叩くが、もうどうしようもない!

 涙が零れる……また、また大切な人を、婚約者を奪われてしまった……!!


(母上に……どう言おう)


 どうしてこうも無力なんだ、と自分が情けなくなる、

 学院で三年間いったい何を学んできたんだろう?

 戦闘訓練も素振りだけだったせいかルーベン相手にはどうする事もできなかった、

 情けない、あまりにも情けない、すっかりソフィーさんなら安心と思い込んでいた自分が憎い!!


「くっそ……乗り込んでやる!!」


 今度ばかりは引き下がれない!

 ソフィーさんはもう実家を出た身だから彼女の大教会はあてにはできないだろう、

 だったらうちが、この僕が、己の手で取り戻すしかない!!


「父上、剣はありますか」

「い、いや待て、逆らえばこんな領地すぐに潰されるぞ」

「こんな領地よりソフィーさんの方が大切だ!」

「無駄死にするぞ」

「ソフィーさんのためなら」


 ……多分、僕の実力からしたら、とんでもなく無駄な事だろう、

 でも、でも僕が本気でソフィーさんを助け出したいという気持ちで行けば、

 奇跡の確率で取り戻せるかも知れない、そう、それこそあの卒業式の後に、

 ソフィーさんにプロポーズを受け入れてもらえた時のように……

 可能性が0%だと思っていても実際は違ったんだ、奇跡をもう一度、起こしてやる!!


(剣はどこにあったっけ)


 そもそもこの屋敷で武器の類を見た事がない、

 幼い頃のおもちゃの剣とかあったとしても仕方ないし、

 学院で使った剣も木製もしくは刃を殺したものだったので持ってこなかった。


(いや頭を使うんだ!忍び込んでこっそり連れ出す方法だってあるはず!)


 何か良いものはないかと屋敷の中をうろつく、

 父上は自室に閉じこもって返事はない、やはりショックだったみたいだ、

 母上の部屋はちょっと覗いたらまだ眠っていたので入れないとして、

 物置の奥の方に何かないかな、と思ってあさるも大したものは無い。


(唯一あったのが、この魔法の杖か)


 おそらく母上の昔使っていたものだろう、

 埃被っていたがそこそこ立派なものに見える、

 いまのところ魔力のまったくない僕には無用の長物だが、

 大教会にでも入って祝福を受ければ僕にも魔法が、ひょっとしたら強大な力が……?


(まさか、ね)


 だが妄想が膨らむ、ひょっとしたら僕は母上の系統から奇跡的に魔法の才能を受けていて、

 今はまだそれを出せないものの、その素材に気付いたソフィーさんが僕のプロポーズを受けていたとしたら?

 そういえば祝福を受けられますか?と教会都市で言われたような気がする、あの時受けていたら覚醒していた?!

 ということは、チュニビ・カジーラ地域一帯の領主に宗教の信仰を禁じたのも、

 もしや僕の能力を封じるため?だとしたら僕は、実は僕は……、実はとんでもない魔法の才能が秘められているのかも!!


「よし、魔力がある者が覚醒するという、教会の祝福を受けよう!」


 そして『謎の魔法使い』としてソフィーさんを颯爽と奪い返し、伝説を作るんだ!

 そうすればきっと惚れ直してくれるだろうし、僕も貴族として胸を張れる!よし、これで行こう!


  妄想が膨らみ過ぎて奇行に走る  

                  だめ貴族だもの。 ミスト

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る