第11話 ソフィーさんと村案内デート

 メイドお婆ちゃんズが途中まで作っていた調理に乱入してソフィーが仕上げた朝食は本当に美味しかった、

 パンの焼き加減ひとつで、パスタの茹で加減ひとつでこんなに違うのかとびっくりさせられる、

 びっくりしたのがキノコの味付け、こんなに変わるものなのかと舌を巻いた、もうこれは夕食レベルだ。


「あれ? 父上、ソフィーさんは?」

「ああ、エスメにパスタスープを食べさせてくれているようだ、色々と話もしているのだろう」

「そうですか、お昼ご飯の時は会いたいな」


 外を見ると商団の馬車が引き上げて行く所だ、長旅本当にお疲れ様、ありがとうって言いたい、

 でも手配してくれた公爵家の名前をもう忘れてしまった、あとでソフィーさんに聞いて手紙でも出そう。


(結局、カジーラを通らなかったなぁ……)


 一番行きたくない、馬車の速度を考えたら泊まらなくて良かったけど、

 あそこの従兄と従妹は性格悪いからきっと何か言ってくるだろう、

 その時はなんとかしてソフィーさんの存在を隠さないといけない。


(だからって家に閉じ込めておく訳には……う~ん)


 考えながら屋敷を出て懐かしい我が村を歩く、

 すっかり高齢化でじいちゃんばあちゃんだらけだ、

 働き手を強引にチュニビやカジーラに持って行かれたっていうのもあるが、

 この村自体に魅力がないのも否定できない、こっちもなんとかしないと……

 シンボルだったはずの天使の噴水は半分壊れ、水は下からしか出ず翼はもげている、その前には綺麗だが何も乗っていない大きな台座が。


(この水も汚いなぁ、ちゃんと掃除できる人がいないんだろうな)


 いても無料ではやらないだろう、僕が修復してみたいが知識もお金もない、

 何のために王都へ行って学んできたんだって思う、でも、とてつもなく大きな物を持って帰れたのも事実だ。


「ミストく~ん!」


 何食わぬ顔でやってきたソフィーさん!


「ど、どうしたの?!」

「ミストくんに村を案内してもらおうと思ったのに、いないんだも~ん」

「あ、母さんの食事を手伝ってるって聞いて邪魔しちゃ悪いと思って」

「お腹が膨れたから今はまた眠っているわ、徐々に徐々に良くなっていくわよ」

「ありがとう、本当に、ありがとう」


 僕の隣にきて、ぎゅっと腕を組んでくる、デートの合図だ。


「お昼と夜ご飯の材料買いたいわ、多めに」

「うん、お店いくつかあるから案内するよ」

「わあ、楽しみ~」


 そうはいってもひとつを除いてみーんな無人販売だけど。


「ねえねえ、さっきの噴水、直さないの?」

「直したいんだけどね、天使の像の前に台座だけあったの見た?」

「ええ、キングサイズのベッドみたいな大きさだったわね」

「あそこにカジーラの領主アーサー=チュニビッフィ伯爵の像を建てろって命令が来てて」

「お金は貰えたの?」

「ううん、こっちの自腹で……で台座だけ作って力尽きた」


 多分、最初から台座だけ作ってあとは無理ですって言うつもりだったんだろう、

 父上はそのあたりうまく叔父たちの要求をかわしてるみたいだからな。


「廃墟がいっぱいね」

「うん、手入れすればすぐ住めそうな家も多いけど」

「私たちでここをまた人でいっぱいにしましょう」

「それには僕がまず準男爵を継がないと」

「厳密には準男爵は貴族じゃないの、知ってるわよね?」


 うん、よく知ってる、だから孤児院で胸張って貴族って言い辛かった……


「ふふっ、公爵か辺境伯になるまでどのくらいかかるかな~」

「ええっ、そんなに上の爵位目指すの、僕?!」

「ミストくんとならできるわ、私がいるし」


 そんなお料理ガンバリマスみたいなテンションで言われても困るな。


「あっ、最初のお店が見えてきたよ」

「あら?まあ、かわいらしいお店ね」


 ゴザの上に果物がいくつも置いてあって、横の箱に銅貨を入れられるようになっている。


「傷ついてるうえに硬い実で市場に持って行けないやつをこうやって無料同然で売ってるんだよ」

「パーシブの実ですわね、表皮が凄く厚くて中が少ないうえ種が大きいという」

「よく知ってるね、味も当たり外れが大きいから比較的皮が薄くて甘そうなのしか、ちゃんと売れないみたい」


 ソフィーがひとつ手に取ると無詠唱のまま風魔法でスパッと四分割に切る!


「うわ!すごい手際良い」

「これがここにある中で一番実が大きくて甘いのよ」

「見ただけでわかったの?!」


 半分、つまりふた切れを僕に渡してくれる、

 種を除けばそれほどの量ではないものの確かに美味しい。


「あ、料金払っておくよ」

「ありがとう、私、細かい銅貨は持ち合わせなくて」

「ソフィーさんとなら食材の買い物が楽になりそうだ」


 こうして食べ歩きつつ、いくつかの無人販売所を通り過ぎ、

 この村唯一の有人市場へついた、広さは十分だがお店の数は数件だ、人も十数名。


(う、じろじろ見られてる……)


 若い人が来てるだけでも珍しいのに、

 いかにも場違いな聖女様だからそりゃあ目立つよな。


「おう、領主の息子のミスト坊じゃねえか、隣りは何者だ?」

「スレリンさん!ご無沙汰してます、彼女は王都から来た聖女の……」

「ソフィーと申します」

「聖女様か!ソフィーさん、コイツには気を付けてください、コイツは昔……」

「い、いいから!そんな話は!とにかく今、魔石の流通ってどうなってるんですか?」


 大きな木箱にそこそこ中古の傷ついた魔石がいくつか転がっている。


「こんなもんさ、他所から、チュニビやカジーラから使い古された魔石がたまに流れてくる程度だ」

「魔力はあんまりなさそうですね」

「いくつか満タンで来るのもあるが何度も空になったやつだからすぐ無くなるし、ここじゃ補充もままならないからな」


 魔石はモンスターから取れるが基本的に魔力を注入して使うもので、それが出来るのは魔法が使える者に限られている、

 この村にはそれを存分にできる若い者はいないため、他の街で親戚や知り合いに頼むかお金を払って封入してもらう必要がある、

 たまーにカジーラから神官が来てすごく高い値段で魔力を入れてもらえたりするが、みんな貧乏で希望者は少ない。


「スレリンさんの娘さんは最近は」

「ここ二年帰ってきてねえ、カジーラ北部の農作業が忙しいらしくてな、半年に一度帰ってきて魔力入れてもらうのもできてねえんだ」

「僕がいた頃だと入れてもらっても二日もすれば売り切れてましたよね……あ、ソフィーさん」


 ここまでの会話で理解してくれてたらしく、

 箱の底の魔石全体に手をかざすと光とともに魔力が放射される!!


「うおおおお!すげえ!姉ちゃんすげえ魔力だな!」

「……ふぅ、このくらいの数であればすぐですわね」


 杖も無しに、速攻で全て魔力を入れ終えたみたいだ。


「ありがてえ、ありがてえ、ありがてえ」

「スレリンさん、今から大売りですか?」

「いや、これはまず困ってる所から、あとはできるだけ沢山の人に売りたい」


 中から三つくらい取り出しては慌てて蓋をして奥にしまう。


「ミスト坊!これは謝礼だ、受け取ってくれ」

「は、はい、じゃあソフィーさんに」

「ありがたく頂戴させていただきますわ」


 ウチにも空の魔石はいくらでもあるが、今後繰り返し使うなら摩耗を考えるといくらあっても困らない。

 スレリンさんが引っ込んだので僕らは他をまわる。


「こちらのお店は農機具のようですわね」

「もうこの村はおじいちゃんおばあちゃんばかりだけど、みんな働かないと生きていけないから」

「よろしければ私も手伝わせていただきますわ」

「えっ、ソフィーさんが?いやいや、それは僕の役だから!」

「あら、体力的にも、あとは効率的にも私の方が適していると思われますが?」


 うぅ、ぐうの音も出ない。


「じゃ、じゃあ一緒にやろう、とりあえず道具だけはウチに揃ってるから」

「ふふ、その時は色々と驚かせてみせましょう」


 何をするつもりなんだろう……

 なんて言っているうちに野菜をいくつか買って市場はすぐ見終わった。


「ミストくん、お肉は売ってなかったみたいだけど」

「今日は仕入れがなかったみたい、若い人が多くいた頃は南の森でオーク退治して取ってきたみたいだけど最近は」

「今でも出るの?」

「出過ぎで近づけないくらいだよ」

「ちょっと行ってみましょう、案内して」

「え?え?え?」


 引っ張られて市場を出る、村から外れて丘をいくつか上り下りすると、

 畑の一角でひなたぼっこしている爺さんがいた、しかも全裸で……隣にワーウルフも寝ている。


「ソフィーさん、あれは見ないで」

「どうしてですか?」

「いやその、裸だから」

「知らない方ですか?」

「いいや、昔から知ってるマンタ爺さんだ、隣りの魔物はペットだから攻撃しないでね」


 ひと働きして休憩しているんだろう、三年前どころか十年前からいつもあんな感じだ。


「こんにちはー、良いお天気ですわねー」

「ちょ!ソフィーさん!」


 仰向けに寝てたマンタ爺さんとワーウルフがむくりと上半身を起こし、こちらを見る!


「おう?なんじゃこのべっぴんさんは?隣は領主んとこの、すけべボウズじゃねえか!」

「すっぱだかのお爺ちゃんに言われたくないよ……」

「なにおう?これでもワシは昔はこの国で十七番目に偉かったんじゃぞ?!」


 まーた言ってら、昔からずっと言い続けてる自慢だがとても本当とは……


「あらそうなのですか、申し遅れました、私、王都グランセントのミンスラー大教会から嫁いで参りましたソフィーと申します」

「おう!ワシは……マンタじゃ!まぁ昔の話はやめておこう、聖女様ならワシの腰は治せるか?」

「はい是非、手当させてください」


 相手がフリチンにも構わず手をかざして光魔法を無詠唱で放つと腰回りに吸収されていく。


「……おお!一気に腰が軽くなったわい!」

「骨自体が強くなった訳ではありませんから無理はなさらないでくださいね」

「うむ、ワシが復権したら勲章を推薦してやろう!」


 マンタ爺さんが直接くれる訳じゃないのか、そりゃそうか。


「じゃ、じゃあ爺ちゃん、ちょっと見晴らしの良い所を案内してくるから」

「おう、落ちるんじゃねえぞ!」

「それでは失礼いたしますわね」


 爺さんとしっぽをよく振るワーウルフに見送られ丘を通り過ぎ、

 森へ入り深い方、深い方へと道を行くと突然崖になる、危険の立札が朽ちている……

 大昔はたまに誤まって落ちた村人や冒険者がいたらしいが、

 三年前はこっちまで来る元気な人すらほとんどいない様子だった、多分今も。


「絶景ね~」

「この下の森に凶暴なオークがいっぱい住んでるんだ、奥にはダンジョンもあるらしいけどもう誰も行ってないと思う」

「じゃあちょっと試してみるわね」


 手を森の方へ伸ばして念じると無詠唱の光り魔法を放つ!

 ……気が付けば持ちあがってきた光の網に丸々太ったオークを捕獲していた!

 素手で無詠唱の魔法のみでこの腕前である、すごい、恐ろしいとしか言いようがない。


「じゃ、絞めるね」


 光魔法を浴びせたあと、光の網が急に収縮してオークは少し暴れた後に動かなくなった。


「美味しそうなお肉~」

「あっという間に……ってあれ?聖女様って肉、大丈夫なんだっけ」

「宗派によるわ、私の大教会は浄化魔法をかけたうえで殺せば食べても大丈夫よ」

「なるほど、じゃあさっきかけたのはそれかぁ」

「オーク肉の調理、楽しみだわ~」


 魔法の網に入れたまま引きずって歩き始めたソフィーさん、

 オークを定期的に大量に狩れるようになれば、またこの村の特産品として復活できるけど、

 ソフィーさんひとりに毎日何百匹とか無理だよね、いや、できたとしてもやらせたくない。


「ってソフィーさんひょっとしてひとりでオーク肉さばけるの?」

「学院の冒険者実習で一通り学習済みよ、ミストくんは?」

「冒険者実習は、王都の冒険者ギルドで冒険者登録して終わりました、はい」

 


 首席卒業と格の違いを思い知らされる 

                    だめ貴族だもの。 ミスト

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