第10話 いろいろすっ飛ばして帰宅

「うっわ、なんでこんなに飛ばすの」


 乗っていた馬車は今までにないぐらい最高速で走っていた、

 ゴアッソで十分休養を取らせたとはいえ、チュニビ領に入ってからは逃亡者のような走りだ、

 時々えっこんな所を? というショートカットをしたりする、そんなに急ぐ何かがあるのか。


「きっとあれですわね、商団の予算かと」

「あ、なるほど」


 無償提供の貸し馬車だ、早く僕らを届けて一日でも、半日でも使用期間を終わらせたいのだろう、

 あと本気を出せばこれだけ早く着くという性能を見せて、今後の商談に生かせたいのかも?

 夜中でも馬車の前につけられた、普通より明るい光る魔石が道を照らしているから平気だ。


「一応、チュニビで一番上の叔父さんに挨拶する事になってるんだけど、ちゃんと向かってるよね?」

「このあたりは初めて来るからわからないですね、朝には到着すると馬車の引き手がおっしゃってたので、寝ていれば良いかと」

「そうなんだ、このスピードで揺れないのは本当にすごい」


 いや馬車自体はすごい揺れてるはずなんだけど、

 魔法で内部がまったく揺れないのは本当にすごいよ。


「少し狭い車内ですから疲れていませんか?」

「え? そういえば他の馬車に比べて狭いって話だったけど僕には十分広いよ」


 そう、行きの十二人乗り合い馬車とか地獄だった、ぶつけて怪我までしてたもんな。


「マッサージをしてさしあげましょう、さあ、膝枕に頭を」

「えっ? は、恥ずかしいよ」

「昨日も一緒のベッドで眠ったではありませんか」

「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて、少しだけ」

「目の周りとか、こめかみとか、後頭部とかマッサージすると疲れが取れますよぉ」


 程良い力加減でマッサージされる、心地よい、良すぎる、天国だぁ。


「うぅ、これは良いぃ」

「もっと力を抜いて、そう、深呼吸をしてみましょう、吸って~……吐いてぇ~~……」


 うぅ、気持ち良すぎて猛烈な眠気に襲われてきた、

 心地よい光に包まれているような感覚……魔法みたい、

 まあ、暇だし寝て起きたらチュビニ最大の都市ルポスだ、

 ふわぁ、久々に爺ちゃんにも会いたいな、婚約者連れて行ったらびっくりするだろうなぁ、

 しかも……せい……じょ……



 チュンチュン、チュンチュン……



「ミストくん? ミストくん、朝です、着きましたよ?」

「えっ、もうルポス?」

「いいえ、フォレチトンです」


 なんでーーーー?!

 窓の外を見るとメイドお婆ちゃんズが覗きこんでる、

 間違いない、三年ぶりの、ちょっと懐かしの、我が家だ!!


「えっと、ただいま」

「予定より随分と早いんだね! お館様が待ってるよ!」


 せかせかと家に戻っていった速い方のお婆ちゃんメイド・オリヴィエさん、

 そしてゆっくりした方のお婆ちゃんメイド・ヴァネッサさんは馬車の運転手に水飲み場を教えている、

 後続の馬車からはもうすでに荷物がほぼ運び込まれているようで、最後の何か大きな箱のようなものが入っていった。


(ソフィーさんの服とか入った家具かな?)


 聞こうかと思いソフィーさんを見ると、

 うちのボロい平屋の領主邸を見て何か考え込んでいる。


「その、がっかりしました?」

「え?はいこの家ですか?どう修繕しようか考えていた所です」

「そんなお金はうちには……あ」


 持参金たっぷりあるんだっけ、でもそれはソフィーさんが使うものだ。


「さあさあこちらへ」


 ゆっくりめお婆さんメイドに誘導されて中へ、

 そんなにソフィーさんを案内しなくちゃいけないような複雑な間取りじゃないんだけどな、

 入ってあっという間に父上の書斎へ、さすがにここは僕から入らないと……扉をノックする。


 コン、コン


「失礼します、ミストです、只今帰りました」


 中に入ると三年分、少しだけ老けた父上がいた、

 まだ早起きな時間なのに、書類を色々と整理している。


「おお早かったな、どうした? 卒業目前で自主退学させられたか?」

「いえ、その、向こうで婚約者ができたので、早くお見せしようと……ソフィー、おいで」

「はいミストさま」


 初お披露目なのであえて僕はソフィーと呼び捨てし、

 ソフィーさんは僕に、この僕なんかに『さま』をつけてくれる、

 僕がプロポーズした時に着ていた彼女なりの一番質素な服で父上の前にかしこまる。


「はじめましてお義父様、ミンスラー家より参りましたソフィーと申します、至らない点が多々あると思いますが、

 ポークレット家の嫁として認めていただけるよう、精いっぱい努力・精進して参りますので、何卒よろしくお願いいたします」


 深々と頭を下げるソフィーさんを前にガクガク震え出し、目に涙を溜め、表情を崩す父上!


「うお、お、お、で、で、でぇかぁしぃたああああああああああああああ!!!」


 泣きながら僕に抱きついてくる!

 正直暑苦しいが、抱きついた相手がソフィーさんでなくて良かった。


「ミスト! お、お前、良かった! 良かった! ついに! ついに! 良かった! よーかったーーーー!!!」

「落ち着いて下さい、僕もまあ信じられないまま連れて来ましたけど、父上は落ち着いてもらわないと」

「うううぅぅ、こ、これで、これで、ポークレット家も、安泰ぢゃああぁあああああああああああああ!!!!!」


 こんなテンション高かったっけ僕の父上。


「お義父様、精神安定の魔法をかけますね」


 光魔法が父上を包むと、

 ようやく息を整えて汗を拭きながら真顔に戻った。


「ミンスラー家というと、まさか」

「はい、大教会の方から来ました」

「そうか、そちらの方か、とりあえず君の事はできるだけ隠した方が良いかな?」

「いえ、まだ問題はないと思います」

「いやそうじゃないんだ、うちは、こっちは……まあいい、今日はゆっくり休んでくれ」

「かしこまりました、お義父様、それでお義母様は」

「うむ、あまり大勢で入るべきではないから、ソフィー様、いや、ソフィーだけ来てくれ」


 僕も会いたいけどここは従うしかない、

 お金がなくて十分な治療をしてあげられないから全然良くならないんだよな、

 寝たきりといってもまったく眠ったきりという訳じゃないんだけど、

 早く僕が爵位を手にして、このフォレチトンを発展させてそのお金で治療を、

 そうだ、うちに嫁いだって事はソフィーの持参金を使わせてもらうという手も……


「うおっ?!」


 ピカーッとまばゆい光が母上の寝室の方から輝く!

 ドアの隙間から溢れんばかりの神々しい光り魔法が漏れている!


「おお!エスメ!エスメーー!!」


 歓喜混じりの叫び声がまた聞こえてきた、

 これはひょっとしてひょっとしたら、と思っていたらソフィーさんだけ出てきた!


「完治までは行きませんが、命の心配はもうありませんよ」

「ほ、本当に?!」

「はい、意識もちゃんと取り戻しました、今はお義父様と二人きりにしています」

「あ、ああ、ありがとう!!」


 命の心配がある状態だったのか! でも良かった!


「後は食事を少しずつ増やしてあげて下さい、急に大量に食べると危険ですから」


 そうメイドお婆さんズに話しかけた、

 あんまり反応は良くないがわかってはくれてるはずだ、

 きっと驚いてるだけだろう、僕だってびっくりしている。


「さあ、遅くなりましたが朝食を作らせていただけますか?」


  新しいお嫁様が奇跡を起こしてくれた

                    だめ貴族の家にて。 ミスト

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