第9話 これが僕の婚約者です!

 その後、馬車は順調に走り、

宿に泊まるたびにソフィーさんに迫られつつも紳士的に対応し、

二度の馬車交換を経て、幼馴染との約束の地であるゴアッソに到着した。


「さすがこの国最大の商団が持ってる馬車、速すぎるよ」

「景色の流れがあきらかに違いましたものね」

「所でアベルクス先生をいつのまにか見なくなったんだけど」


 ちょっと前の、馬車内で先生が寝てる隙にソフィーさんに迫られるプレイ? は、

 焦りつつも少し興奮した。


「手前の街で、別件で別ルートへ向かったみたい、

 きっと、またいつかどこかで会えるでしょう」

「そっか、ちゃんとお別れを言いたかったかも」

「さあこの街でしょう? 私を紹介したいっていう方がいるの」


卒業前に手紙で書いて送った予定よりも、

 ずいぶん早くなっちゃったけど突然訪問しても大丈夫だよね?

 と記憶を頼りに街を歩く、王都から随分離れたこのあたりになると落ち着いた雰囲気だ、

 超田舎のうちよりもはだいぶ人はいるけど。


「ここだ、この家! 僕の後ろに隠れて」


 ドア横のベルを鳴らし声をかける。


「ミストだよー、ちょっと早いけど来たよー」


 奥で何かゴトゴト音している。


「どうしたーアレクス何かあったかー」


 ドアが開いたと同時にほうきで頭をこつんと叩かれた!


「いてて何すんだ!」

「来るのはええんだよ! 偽物かと思ってよ」

「本物だよ、それはそうと紹介したい人がいるんだ! ほら!」


僕が横にどいて、どうだ!という感じで見せると、

かわいらしくポーズをつけて挨拶するソフィーさん。


「はじめまして!ミスト=ポークレット様の婚約者、

 ソフィー=ミンスラーと申します! 以後お見知りおきを」


 どんでもなく驚いた表情のアレクス、

 目をぱちくりさせたあと、再び僕の頭をほうきで小突いてきた!


「いて! だからなんだよぉ」

「いくら払って雇った! それとも何か脅したか?」

「ほんとだよぉ、王都の学院で恋人になったんだよぉ」


 卒業式の後でだけど。


「ええっと、ソフィーさん?」

「はい」

「とりあえず中へどうぞ」

「お邪魔しますね」


 先にソフィーが入った後、

 僕も入ろうとしたら扉を閉められた!


「おいおいおい肝心の主役入れないでどうするんだよー」


 ベルをリンゴンリンゴン鳴らしてみる!

 中で何か会話してるみたい、さらにもうひとり女性の声も聞こえる、これはもしや!


「サーシャ? サーシャもいたのか! 僕だよミストだよ開けてよー」


 どうしても幼馴染の前では幼い当時の感覚が抜けない気がする……

 さらにしばらく中で何か会話が繰り広げられたのち、ようやくして扉が開かれた!


「信じられないが本当みたいだな」

「だろ? 僕も完全には信じてない、あっサーシャお久しぶり」

「顔合わすの三年ぶりね、手紙は毎回ちゃんと読んでるわよ? 返事忘れちゃうけど」


 中に通されるとソフィーはすでに紅茶を出されてくつろいでいる。


「ミストくんの幼馴染、なかなか良いお友達ね、親身に心配してくれて」

「そ、そう? 僕の心配はあんまりしてくれないんだけど」

「ミストはいいんだよ! それより奇跡って起こるんだな、こんな婚約者なんて」


 不思議そうにまじまじ見てる、

 僕もアレクスだったら同じような表情してると思う。


「こんな素敵な女性を射止めるなんてミストくん見直したわ」

「う、うん、いまだにどうやって射止めたかはわかんないけど、そういえばサーシャはなぜここに?」

「あー、連絡しそこねたけど去年、私たち、付き合いはじめたのよ」

「え、ちょっと待って、三年前は別々に恋人がいたよね? それとセスは元気か?」

「あー」「う、うん、たぶん」


 もうひとりの幼馴染の名前を出すと、

 とたんに元気がなくなった二人、どうしたんだろう?


「何か悪い事言った?」

「セスはなぁ、ちょっと戻ったっていうか、フォレチトンまでは戻ってないんだが、カジーラまで戻って農園やってる」

「帰り、通り道でしょ? もし会ったらこっちへ遊びにおいでって伝えておいて」

「う、うん、わかった、まあ色々あったんだな」

「ミストくんも紅茶飲んであげて」


 いつのまにか出されてた紅茶をソフィーさんに促され、飲みながら考える、

 ひょっとしてアレクスとセスとサーシャで、いつのまにか三角関係にでもなって、こじれたか?!


「サーシャさん、ミストくんの幼い頃の話とか聞かせていただきます?」

「あーいっぱいあるわよ、七歳まで毎日のように四人で遊んでたんだけど、そうねまずはメスのオークに追いかけ回されてた話とか」

「ちょ、いきなりそれを!!」


 ……なんてくだらなくも懐かしい昔話で盛り上がり、

 楽しいひとときを過ごした後、日も傾きそろそろ出発の時間となった。


「じゃあアレクスもサーシャも、式が決まったら呼んでよ」

「ああ、逆にミストたちの結婚式も行きたいが、行けなかったらすまんな」

「お二人ともお幸せにね、っとその前に」

「え? うわっ!」


バタンッ!


 僕だけ外に追い出されて中でひそひそ話してる三人、

 まだ僕とソフィーの関係を疑っているのだろうか?

 聞き耳でも立ててやろうかと思った時に扉が開いた。


「さあ行きましょう」

「う、うん、じゃ!」


 べったり僕の腕に絡み付くソフィー、これで幼馴染の二人も安心だろう、

 明日からはいよいよ広い意味でのうちの領土に帰る、うん、できるだけ速やかに通り抜けよう!

 ……カジーラにつく前に、まだ言ってないあの話もしておかないと。



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 ミストとソフィーを見送るアレクスとサーシャの表情は不安に満ちていた、

 二人ともついさっき扉の中でソフィーだけに話していた言葉を思い出す。


「あそこは危険だ、正直に言えば帰るのは止めた方がいい」

「貴女のような人まであそこに囚われるのは良くないわ、ミスト君と一緒にこの街で暮らしましょう」

「大丈夫です、すべて、わかっていますから」

 

 

 知らない所で知らない話が進んでいる 

                   だめ貴族だもの。 ミスト

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