第5話 この身ひとつで、の意味

 夜、王都グランセントと隣の領地ラスモフィアとの境まで来た、

 そこそこ大きな都市ドラリスが今日の宿泊地だ。


「ええっとソフィーさん、僕、銀貨十八枚しか持ってないので高い宿は」

「あら、そのあたりは全て私が払いますわ」

「あれ?嫁入りのときは、私服ひとつ以外は何もないんじゃ」


 プロポーズ受付前にそんな事言ってたよね?


「ええ、我がミンスラー家からお嫁に出る時は一番質素な私服だけ着て嫁ぐ事になっています」

「じゃあお金は?」

「まず、私が学院の実習などで稼いだお金は実家外での利益となりますから、それは誰も手をつけられる物ではありません」


 まあ確かに。


「制服なども私が嫁ぐというのに実家に送られても迷惑なので持ってきてます」

「それはちょっと、嬉しい」

「あと、これは代々受け継がれているらしい抜け道なのですが……」


 服の装飾品、質素な金具の内側から何か出して見せた。


「これは……!」

「白金貨です」


 これ一枚で大金貨百枚分!

 こんな高価なものを!


「良いんですかそれ?!」

「あくまでも装飾品ですからね、実家からしても大した負担ではありませんし」

「凄いですね、ひょっとして他の装飾品の裏にも」


 いや、これ以上は聞かないでおこう。


「ただ白金貨は両替できる都市が限られていますから、早速ここで一枚交換して行きましょう」


 僕がまず入る用事のなさそうな商業ギルドへ連れて行かれる、

 そこでギルドカードを見せるソフィーさん、そういえば在院中に僕も作ったな、

 冒険者ギルドでも使える共用ので、Gクラスの僕らは本当に登録だけだったけど他のクラスはダンジョンとか行ってたらしい。


「ミストくんのも」

「え? あ、はい」

「こちらのカードには大金貨五十枚分入れておいてください」


 うお、頼んでもないのにお金貰えた!いいのだろうか?


「あの、ソフィーさん?」

「夫婦になるのですから当然です」

「あ、はいっ」


 都市と都市のギルドは特殊な魔法で情報が伝わっていて、

 ここで入金したとしてそれを他の都市で引き出せるんだけど、うちの近所は多分、いや絶対ない。

 ソフィーさんも自分のカードに四十枚入れて、残り十枚のうち二枚を普通の金貨二十枚にして一緒に袋にしまった。


「じゃ、これからデートね」

「ええっ?」

「学院じゃ話もできなかったでしょ? こういう事とかも」


 きゅっ、と腕を組まれると恥ずかしくて逃げ出してしまいたくなる、

 でもソフィーさんに失礼だし、何よりこの感触、女の子の腕、すごく良い!


「もうちょっと、きちんとした服を買いたいし、ミストくんのも選んであげる」

「じゅ、じゅうぶんちゃんと、してるんじゃ」

「女の子はね、服は多いに越した事はないの、また一から集められるのも素敵だわ」


 このあと下着まで選ばされて色々大変だった……

 気が付けば両手いっぱいの服を運ばされていたのだった。


「さあ、宿で食事にしましょう」


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 その頃、ミスト達が卒業した王立グランセント聖貴学院では……


「学院長、飛び級でご卒業なさった聖女ベルル=ヴェルカーク様がどこにもいらっしゃらないと

 従者の方々が騒いでこちらへ問い合わせに来ています」

「うむ、居場所は知っているし心配はいらないが今は言えない、と伝えておけ、

 聖教会内でもジーガ教皇しか知らない事だ」

「かしこまりました」


 窓の外、夕日を眺める学院長。


「……リア=アベルクス君が居るから大丈夫だとは思うが……

 いや聖女さま一人で大丈夫か、それにしても……まさか、のう」


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 大きな宿で豪勢な夕食を二人きりで楽しんだあと、高価そうな二人部屋に向かう、

 そういえば馬車を降りてからアベルクス先生を見てないけど、どこへ行ったんだろう?

 と思っていたら隣の同じような二人部屋に入っていく所を見た、一人で使っているのだろうか?

 ならいっそソフィーさんをそっちへ……


「ミストくん、こっちへ」


 部屋に連れられるといきなりベッドの上で、隣に腰掛けるように促される、その仕草に急に恥ずかしくなってきた、

 この国では十五歳が成人だ、だからそういう事を本格的にやってもかまわないし、むしろ婚約者なら当然だ、

 厳密に言えば僕が十五歳になるのはあと数日後だが、学院を卒業した時点で成人扱いになっている、

 そういう意味では飛び級のベルル様も成人か、やばいな、って今は他の女の子の事を考えている場合じゃないっ!

 ど、どどどうしよう、こういうのは男の僕がエスコートするべきで、っていきなりやっていいの???


「あ、あの」

「なあに?」

「あらためて聞きます、僕の事、すすす、好きですか」


 やばい、すっごく緊張する。


「ミストくんは?」

「好きです!」

「ありがとう、私も好きよ」


 感謝された!そして、いいのか?

 何がどう、なぜ好きなんだろう??


「どこが、好きですか」

「先にミストくんから」

「ま、ま、まぶしいくらい、素敵な女性だからです!!」


 イベントとして告白した時はまるで作業のような気持ちだったけど、

 いま、こうして向かい合っていると、胸の中のドキドキやときめきが止まらない!

 なんというか、遅れてきた一目ぼれ? ゆっくりとした長時間かけた一目ぼれみたいなものかな、

 でも告白を受けてもらってから一目ぼれっていうのも変か、理解が追いつかないというかなんというか、

 できるだけ冷静に考えてみてもこんな美人、嫌な訳がない!

 性格が良さそうなのも滲み出てるし、何より笑顔が素敵すぎる!!


「ふふ、やっぱり褒められると嬉しい」

「ソフィーさんは?」

「んー、ミストくんを好きな理由は、ミストくんを好きだから、かな」

「はあ」

「そのあたりは気付いてくれるのを待たせていただくわ」


 気付くって、ちゃんとソフィーさんが僕の事を好きだって理解するって事かな……?

 僕を好きな理由は僕を好きだから、って答えになっているような、なっていないような。


「ねえ、もっとミストくんを知りたい」

「え?」

「学院に来る前の事を教えて」

「つまり、生まれてからの事、とか?」


ちょっと考え込んでる。


「初恋の話、とかも」

「えっ?」

「なんとなーくそういうのあったんじゃないかなって」

「わかるの?」

「うん、そういう感じがしたわ、言いたくない?」


 うーん、あまり思い出したくないこともあるんだけど、

 道中追々話すつもりでいたし、ここで一気に聞かせてしまおう。


「わかりました、その、実は僕、婚約者が居たんです、学院に来る前に」

「ちょっと待って!」


 なぜか手で静止された。


「その前に聞かせて、ミストくん、はじめてのキス、どうだった?」

「ええっ」

「ねえ、どうだった?」

「は、はい、その、なんか、すっごい、長かった、です」

「そ」


  一発でキスしたことなかったってバレていた 

                       だめ貴族だもの。 ミスト

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