第6話:結末

 少し休憩を取った僕達は、お社のもとへと向かった。


「じゃあ、開けるぞ」


 矢桜が開けることになった。

 体調が戻ったばかりなのだから僕がやると言ったのだが、今回は足を引っ張ることしかできなかったから、と言われた。それを言われると、譲らざるを得なかった。


 矢桜が扉を開けると、中から小学生くらいの身長の人間が飛び出した。

 突然の出来事に反応できず、隣を抜かれた。すぐ後ろに振り向いたが、その時には影も見えなくなっていた。


「何だったんだ、今のは」

「何だったのでしょうね?」

「今のあいつが、今回の呪い‥‥怪異の元凶かも知れないな」

「どういう事?」「どういう事だ?」

「ああ、今の子供…僕達よりも小さく見えたから、小学生くらいだと仮定しよう。あの子を見て何か気付かなかったか?」


 気づいたのならば、何故元凶の可能性が高いと言っているのか分かるはずだ。


「何かおかしなところがあったか?」

「何もなかったと思うけど」

「じゃあ、質問を変えよう。あの子と僕達を比べて、何処か違う所があったか?」

「身長くらいしか、違いなんて「分かった!」」


 イズナは気付いたみたいだな。

 それに反して、矢桜はかなりおつむが残念なようだ。


「じゃあ、答え合わせといこうか。じゃあ、イズナから言ってもらえるか?」

「ええ。矢桜、身長以外に違いが見つからないって言ってたわよね。それ、言っていておかしいと思わなかった?」

「おかしいと思う?何で‥‥ああ!そう言う事か!」

「ああ。ここは時間軸のズレが生じている世界だ。まあ、仮にここが1000年前の世界だとしよう。しかしあの子は、僕達とそう変わりない服装をしていたんだ。この、いつの時代かも分からない、昔の時代でね」

「私達は自分たちと比べてそう変わらないあの子を見て、何も不思議に思わなかったのね。智景君がいなかったら、何が原因だったのかなんて気づけなかったわね」


 まあ、その辺りは仕方がないだろう。服装の話にはなるが、自分たちと全く違う格好をしている人間がいたら、それは凄く目立つし目に留まるだろう。芸能人などがいい例だと思う。

 その反面、自分たちと同じような格好をしているような人を見ていたとしても、特に目にもとまることが無いだろう。

 今回の場合、自分たちと変わらない格好をしていたからこそ、それがおかしなことであったことに気付けなかったのだ。


「まあ、それは置いておくとして、今回の呪い。それをこちらにまで届けていたのは、恐らく動物だろうな。時間軸の違う地点。取り合えず『パラレルワールド裏世界』としよう。この裏世界と元の現実世界、そこで音を伝えていたからこそ、その音に気付く人間と気付かない人間がいたのだろう。なぜこっちの世界には入れたのかは分からないが、まあ、もう元の時間軸に戻っているだろう」

「その、裏世界?が私達の言っている怪異とどう関係があるの」

「そうだな‥‥‥元の時間軸を地点Aとする。そして、この裏世界を地点Bとする。裏世界は元の時間軸においてあったことが再現されている世界だとして、僕達現代人が入ったことによって変わってしまったとする。しかし、僕達の暮らしていた時間軸Aにおいては、何も変わっていないんだ。時間が不自然に過ぎていたことになる。この間が怪異として広まったと考える」


 まあ、このようなものは当て付けで、実際には関係が無いだろう。

 怪異による影響によって時間軸に変化が現れるのは絶対ではないので、この仮説は間違いである。


「つまり現代に置いては、怪異は別の時間軸において発生している、パラレルワールド裏世界の出来事ってこと?」

「まあ、そう言う解釈で間違いないだろう。正確には現実世界に、裏世界が紛れ込んでいる‥‥重なって新たに別の空間が出来上がっていると言った形かも知れないな」

「へ~‥‥話が難しくて、俺には良く分からないな」


 矢桜、それでいいのか。

 まあ、矢桜のことはこの際おいておいて、取り敢えずお社の中を見てしまうとしよう。


「お社、さっきの子のことで有耶無耶になっていたな。見るとしようか」

「ああ。そうだな」

「ちょっと、どうなっているのか怖いわね」


 そう言えば、先程お社の中で爆弾が爆発したはずなのだが、あの子は何故怪我一つなかったのだろうか。


「かなり酷い状況だな。こんな小さい子供の指を切り落として、殺してこんなところに詰め込むなんて」

「爆発の影響は‥‥お社の壁にはかすかにだけど傷が見られるね。でも、死体の方は全然ね。爆弾の影響を受けていない様に見られるわ」

「怪異…じゃ、無かったな。呪いによって、供物だけは保護されていたのかも知れないな。外に出して、埋めてやるとしよう。何故かはわからないが、スコップはそこに立てかけてある」

「そうね。供養くらいはしてあげないとね」


 イズナが中心となり穴掘りを始めた。

 死体の数は12人分で、こうやって掘ってみると、かなり大変だった。




「終わったわね」

「イズナのおかげだな。イズナがいなかったら、途中で投げ出していたかもしれない」


 正直、僕も周りの中学生と比べれば鍛えている方だと思っていたのだが、イズナと比べると天と地ほどの差があるように感じる。

 矢桜は先程まで呪いの影響を受けていたからなのか、まだ体調が戻りきっていないように感じた。


「それじゃあ、帰るとするか」


 僕達は、手を合わせ一礼だけすると、飯塚さんの家へと戻っていった。


 飯塚さんの家で、もろもろの報告を終えた僕達は、それぞれの家へと帰っていった。

 明日は学校だ。金曜日に森へと入り、夜になったところで出てきたはずなのに、2日が過ぎていた。

 時間軸のズレはかなり大きかったのかもしれない。

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