第5話:集落

 集落の人間たちから逃げ出した僕達は、集落に潜伏することにした。

 いや、この言い方は間違いだろう。潜伏ではなく、集落の中で情報を収集することにしたのだ。


「探せ!子供二人だ!そう遠くには行っていないはずだ。ここにやつらの仲間もいる!そいつは逃げられないように、牢にでも突っ込んでおけ!」


 村の長だろうか?他の人たちに比べ、比較的小奇麗な感じがする。

 まあ、現代の衣類と比べたら圧倒的に劣るだろうが。


「あれから逃げるのに、こっちに入って良かったの?」

「まあ、しばらくは外を探すだろ。人間は誰しも、遠くへ逃げようと考えるか、すぐ近くで隠れようとする。でも、敵の陣地で隠れようとすることは早々ない。だから、敵も自陣に敵が入り込んでいるとは思っていないんだ」


 イズナは心配そうな顔をしているが、これで30分くらいは時間が稼げるだろ。


「あそこにいるのは大人の男性ばかりだ。多分だけど、集落の中には女性や子供がたくさんいる」

「それがどうかしたの?」

「おかしいとは思わないか?何で、侵入者を探すだけなのに、完全に成人していると分かるような男だけなんだ?」


 多分、集落の中には何かしらの秘密がある。


「絶対に逃がすなよ!やつらを逃がしたら、ワシたちが呪いにかかってしまう!」


 呪い?どういうことだ?


「イズナ。怪異と呪いって近いものなのか?」

「呪い?うーん。どうなんだろ。私は結構近いと思うけどな」


 近いのか。まあ、主観の様だが、近い可能性が高いと。


「もう少し、やつらの話を聞いてみるか」

「うん。分かった」


「あと30分だ!30分で見つけろ!30分で見つければ、お社様もお許し下さる!」


 新しい名前が出てきたな。お社様か。

 なんだろうな、そいつは。呪い…か。


「神様みたいなものみたいだね。お社様って言うのは」

「分かるのか?」

「多分だよ。でも、あそこまで畏怖の対象だとすると、神様みたいな感じなんじゃないのかな」


 神様か。良く分からないな。イギリスだとキリスト教なんかで神様はいたみたいだが。それ位だし。

 日本だと八百万の神とかいうほど、神がいるらしいからな。多分、俺の知っているような感じとは違うんだろうな。


「あいつらにとっての神のような存在であって、実際に存在する神ではないんだな」

「そうなるの、かな?」


 イズナにも良く分からないみたいだな。まあ、これは追々分かっていくか。

 とりあえず、情報収集といこう。おそらくこの集落には何かしら秘密がある。

 それが、怪異に関するかどうかは僕には分からないが、可能性としては高いのではないのだろうか。


「それじゃあ、そこら辺の家に忍び込もうか。多分、家の玄関が開けっ放しになっているのは、家の中に人がいないと思うから」


 家の中に家族がいたならば、玄関を開けっ放しにして、僕らを追いかけまわしたりはしないはずだ。


「分かった。出来るだけ声は出さないようにする」

「そうしてもらえると助かるよ。じゃあ、行こうか」


 僕達は近くの家から幾つかを回り、いくつかの情報を集めて回った。




 集落の中で情報を集めて、分かったことは3つ。

・集落の名前

・お社様について

・呪いについて


 大体の家で集落の名前とお社様について書いてある物は見つかったのだが、呪いについては最後の一軒でようやく見つけることができた。

 村長の家だったようだが、周りと家のレベルがほとんど変わらないせいで気付くことができなかった。偶然にも、村長が一人暮らしで助かった。


 まず、集落の名前だが、『天久村アマヒサムラ』と言うらしい。

 場所は昔のこの場所の地名になっていた。過去に飛んでいるのだろうか?


 次にお社様についてだ。

 お社様は実存している存在ではないらしい。あくまで称える対象という事だ。そして、天久村の人々にとって、畏怖の対象でもある。

 お社様に力があるのではないらしい。


 最後に呪いについて。

 お社様の話に繋がるが、呪いを発生させたのはあくまで村人だという事だ。

 いくつかの家には子供の指が、半ば腐った状態で神棚に祭られていた。おそらく、呪いを発生させるために、数人の子供が生贄になっていたのだろう。そして、それが外にバレると、呪いが自分たちに返って来るらしい。

 本人たちはすぐに捕まえて、供物にすればいいと思っているようだが、恐らくはその様な事をしても無駄だろう。


 この3つが、今回分かったこと全てである。しかし、何処に子供の身体があるのかは分からなかった。

 まあ、何処か狭いところに押し込められているだのだろう。


「じゃあ、あいつらの後をつけようか」

「バレたら危ないんじゃないの?」

「イズナなら、持ち前の身体能力で逃げ切れるだろ。多分、死にさえしなければ、呪いが解けた瞬間に元の場所に、健康な状態で戻れる」

「それならいいけど‥‥分かったわ。行きましょう」


 先程まで僕達を探していた村人たちは、矢桜を連れてどこかへと向かっていった。

 数分ほど歩くと、岩場へと辿り着いた。

 岩場には小さなお社が置かれていた。


「あそこか。僕が合図したら、これをあそこのお社の中に投げ入れてくれ」

「何これ?」

「秘密だ。ただ、落したりすんなよ。下手すりゃ死ぬから」

「なんてもの持たせるの⁉」


 非難の声が聞こえるが、取り敢えずは無視だ。


「ああ、お社様。賊を捕まえられなかった私どもをお許しください」


 村人たちは跪き、お社に向かって懺悔を始めた。


「お社様、賊の1人である男を捕らえました。どうか、この男で私どもをお許しください」


 矢桜が危険か。だが、まだ少し早い。

 懺悔を終えたのか、村人たちは再び立ち上がると矢桜を囲み、銛を矢桜に向けた。


「3.2.1.今だ!」

「分かった」


バン!


 お社は中から爆発した。

 あのお社は、上の方に少し穴があり、イズナはそこの穴を通して投げ入れたのだ。


「爆弾!?」

「簡易的な殺傷能力は低いものだ。だが、この時代には爆弾など『てつはう』くらいしかなかっただろうからな。まあ、今回使ったのはそれとは似ていないし、『てつはう』程の重さはない代わり、威力はこっちの方が弱いだろうけどな」


 てつはうは過去、モンゴルが日本に攻め入った時に使ったとされている攻城兵器だ。

 重さは4キロほどだそうだが、殺傷能力はかなり高かったとされている。どのように使っていたのかは明らかになってはいないが、そこは置いておこう。

 まあ、作り方は簡単な即席爆弾だ。通常、爆弾としては失敗作とされる、衝撃で爆発するタイプのものだが、こういう時には役に立つ。


「まあ、取り敢えず、これで怪異…じゃ、無かったな。呪いの元凶は潰せたんじゃないか?」


 呪いの元凶は、あそこに詰め込まれているであろう子供の死体だ。

 ならば、それを破壊してやれば、呪いもなくなるのではないだろうか?


「お社様!」


 村人たちは呆気にとられたようにお社を見ていたが、村長らしき人物が叫んだ。

 その声を聴き正気を取り戻したのか、村人たちも慌てだした。だが、もう遅いだろう。


「イズナ、後ろ向いておけ。多分、ここからは見ない方が良いぞ」


 村人たちの言っていたことが事実であれば、ここから彼らは全員小屋にいたおっさんと同じように、イボが出来て、それが膨張して破裂。それが原因で死ぬだろう。

 僕は見届ける義務がある。こうなる様に仕向けたのは僕だからな。

 多分だが、このまま放っておけば、矢桜は村人に殺されずとも、半日も持たずに死んでいただろう。

 だから、呪いを解除するのではなく、破壊することを選んだのだ。


「‥‥分かった」


 イズナは少し悩んだようだが、見ないことを選んだようだ。

 人が死ぬところは、出来れば見ない方が良い。今回の場合イズナは、多少なりとも自分のせいであると思ってしまうだろう。それで辛い思いをさせるくらいならば、最初から見せない方が良い。


 10分ほどが経ち、村人たちは全員が死に絶えた。


「イズナ、矢桜を助けて、お社の中見てこようと思うが、どうする?」

「‥‥私も行く」


 恐らく、死体を見たくなかったのかも知れない。

 だが、意を決して、イズナはお社へ向かうことを決めた。


「矢桜、大丈夫か?」

「ああ、体調は元に戻ったよ。でも、ちょっと吐きそうだ。人の死を、ここまでまじかで見るとは思わなかった」

「そうか‥‥」


 かける言葉が見つからない。


「確か、人を呪わば穴二つ、って言葉が日本にはあったよな。最初は何を言っているのか良く分からなかったが、今回のこれを見て何となく分かった気がするよ」


 僕は気の利いた言葉をかけてやりたかったが、出てこなかった。

 だから、思ったことを口にした。


「そうか」

「ああ」



 僕達はその後少し休み、お社を開けた。

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