第2話:秘密基地

「よっ」

「待たせたか?」

「いんや、全然待ってねぇよ。じゃ、行くか」

「おう」


 学校に着くと、校門の前で矢桜しおんが待っていた。

 昼食を取ってからだったから、そんなに待っていたわけでは無いと思うが、待たせたのは確かだ。


 目的の場所がどこにあるのかは知らないが、学校から自転車で20分程度の場所にあると言っていた。


「そろそろ着くからな」

「山か?」

「ああ。とは言っても、イズナの爺さんのやつだから、入っても大丈夫だ」


 イズナの家はかなりの金持ちの様だ。

 まあ、知っていた事ではあるが、山を持っていることは初めて聞いた。


「お~い!こっち、こっち!」


 崖の脇を通ると、イズナが声を張り上げて、崖の上で手を振っていた。


「アブねぇから、体乗り出すんじゃねぇ!」


 矢桜は心配したのか、イズナにも負けないくらいに声を張り上げて、注意を促した。

 それから1分もかからずに目的地に到着した。山の下で自転車を降り歩いてきたが、山登りは殆どしたことが無いので、新鮮な体験だった。


「さて、智景。ようこそ、俺達の秘密基地へ」


 そこにあったのは、かなりボロボロになってはいるが、造りはしっかりしている小屋だった。

 まあ、大人の手も借りたのだろうが、そこは追求する必要もないだろう。


「凄いな」

「まあ、俺が一月ひとつきに2回くらいは掃除しに来てたからな。そこまで汚くはないと思うぞ」

「そういえば、イズナと矢桜はどんな関係なんだ?」

「あ~、そういや言って無かったな。俺達は幼馴染兼婚約者だよ」

「へ~、そう言う関係だったんだ。て、ことは矢桜の家もそこそこ金持ちって事なんだな」

「まあ、この辺りだと金持ちに入ると思うぞ。でもよ、お前の家も金持ちなんだろ?」

「ん~、どうなんだろうな。周りにいたやつらは、僕と同じ位かガチの貧乏くらいしかいなかったから、どうなのか分からないな」

「いやいやいや。智景君の家は私の家よりも金持ちじゃん!」


 イズナは僕の発言を全力で否定するように、声をかぶせてきた。


「そうか?」

「うん!絶対に家よりも金持ちだよ!」


 だが、本当に僕の家が金持ちかどうかなど、全く知らない。

 だが、山なんか僕の家は持っていないので、イズナの家よりはお金持ちではないと思う。


「僕の家は山なんて持ってないよ」

「金持ちが全員山持っているなんて偏見だろ。この話はもう終わりな。どうでもよくなってきた」

「それもそうね」

「で、僕は何でここに呼ばれたんだ?」

「ん~そうだな。目的を言う前に、智景に聞きたいことがある」

「何だ?」

「智景君は怪異を信じる?」


 怪異?怪異ってなんだ?


「何だそれ?」

「ああ~、そうだった。英語で言うと、weird、かな」

「ん~。怪異ねぇ。信じるも何もないんだよな。見た事無いんだし。僕は見た事しか信じないから」

「うし。じゃ、どちらかというと信じている方だな」


 そう、なるのか?


「ま、どっちでもいいんじゃない?見れば信じるらしいし」

「それもそうだな。それじゃ、行こうか」

「どこに行くんだ?」

「今日は依頼が入っているんだよ。帰りは明日とかになると思うけど、大丈夫か?」

「家に誰もいないから、全然問題ないけど」

「悪いこと訊いたか?」

「別に大丈夫だ。もう慣れている」

「そっか。まあ、いつでも家に来てもいいから」

「何かあったら、頼らせてもらうよ。で、依頼ってなんだ?」

「ああ、俺とイズナな。3年くらいの時から、怪異の情報調べたりして、冒険?ていうのかな。それを解決したりしてるんだ。依頼が入ることもあってな、そん時は何か貰ったりすることもあるんだぜ」

「結構危ないこともあるから、いやならここで帰っておいた方が良いよ。まあ、私はそこまで危ない依頼は行ったことないから、あまり分からないけど」


 危ない?怪異というのが、危険なのか?


「ま、いいよ。危なくなったら逃げるから」

「じゃ、ついて来てくれ。今回はこっからあまり離れていないところにある廃屋だ」




 山を下りると、自転車に跨り出発した。

 イズナは自転車を持ってこなかったのか、走って僕達についてきた。

 ついて来れないようだったら、ペースを落とそうと思っていたが、無駄な心配だったようだ。そういえば、向こうにいたときも身体能力はずば抜けてたな。


「ほらほら、2人とも遅いよ。おいて行っちゃうよ」


 絶対に自転車に乗っている人に、走っている人が言う言葉じゃないだろう。

 次からロードレーサーに乗ってこようかな?


「で、まだつかないのか」

「ん?ああ。目の前にあるだろ。あれだよ」

「廃屋、廃屋‥‥どれだ?」


 目の前に広がるのは住宅街。突き当りにあるのは、周りに比べそこそこ大きな家だけだ。


「あのデカいのだよ」

「あれ、廃屋なのか?」


 廃屋ってなんだっけ?


「違う、違う。目の前の家じゃなくて、その後ろに広がっている森の中にあるんだよ」

「だったらそう言えよ!」

「まあ、あそこの家には用事があるし、よるけどな」


 イライラしてくるな、こいつ。




「ごめん下さい!」


 家の外でインターホンを押した矢桜は、何故か大声で家の人を呼んだ。


「ちょ!矢桜、それ止めなさいって、何度言ったらわかるの!」


 このやり取り、今までにも何回かあったらしいな。


「は~い。あら、3人?2人って聞いていたけど」

「今日、一人メンバーが増えたんですよ」

「あら、そうなの。じゃあ、中に入って頂戴。依頼のことは中で話しましょう」

「分かりました。お邪魔します」


 最後はイズナがやり取りを交わし、家の中へと案内された。




「——では、森の中で木の手入れをしている人が謎の音を訊いてから、どんどん体調が悪くなっていくのですね」

「そうみたいなのよね。それに、今になっては体にぼつぼつまで出来てきたらしくて。怖くて、怖くて。気軽に外も歩けないわ」


 訊いている、という事は事実かどうか分からないと。


 その後も、色々と訊きだすことができた。

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