裏世界へようこそ

聖花シヅク

裏世界からは逃げられない

第1話:入学式

 桜の花びらが舞い散る季節になり、僕達は中学へと入学した。

 入学式を終え、それぞれの教室へと向かい、HRとなった。


「初めまして、和逆あいさか孰凪いずなです。去年は親の都合で海外に行っていました。その前は閼伽名木あかなぎ小学校に通っていました。よろしくお願いします」


 出席番号一番。孰凪いずなという名前だと、男女どちらもありそうだが、女子である。


 その後も挨拶が続き、僕の前となった。

 僕達のクラスの人数は28名で、僕は20番だ。


「初めまして、ひいらぎ矢桜しおんです。小学は西小でした。よろしくお願いします」


 この近くには、3つの小学校がある。

 一つは彼の言っていた西小、正式名称は西宮にしのみや小学校だ。

 2つ目は東小、正式名称は東南あずまみなみ小学校。

 最後の一つは私立で、1番のイズナが言っていた、閼伽名城あかなぎ小学校だ。


 大抵は西小か東小から来るが、時々閼伽名木小学校からくる子もいる。

 次は僕の番だな。


「初めまして、今年の冬にこちらに越してきて、2ヶ月ほど西小の保健室に居ました。比良茶菓ひらさか智景ちかげです。去年の年末まではイギリスの方に居ました。よろしくお願いします」


 まだ少し日本語は苦手だ。2年前までほとんど日本になど来たことが無かったのだ。

 それなのに突然、日本に住むことになったのだ。決まったのが3カ月前なので、これでもかなりうまくなった方だと思う。

 あ、両親は生粋の日本人だ。しかし、仕事の都合でイギリスの方にいたため、それについていく形で(生まれもイギリスだが)イギリスにいた。


 僕の挨拶が終わり、その後も順調に挨拶は進み、始まってから30分ほどで全員の挨拶が終了した。


「さて、私も自己紹介といこう。私がこれから3年間、君たちの担任を務めることとなった荒崎あらさき文乃ふみのだ。今年が初めての担任なので、分からないことも多いが、色々と助けてもらえると助かる。これから3年間、よろしく頼む」


 女性だが、かなり適当な性格なのかもしれない。


「さて、じゃあこれから、所属する委員会を決めてもらう。委員会は———」


 先生が委員会の名前を書きだしていき、僕は一番仕事の少なそうな体育委員会を選んだ。


「じゃあ、それぞれの委員会ごとに分かれて、仕事の分担を決めてくれ」


 この学校では委員会は1年生の間しかないそうだ。

 それぞれのクラス(2クラスしかない)で委員会を分けてあるらしい。


「ひらさか…智景、だったか?」


 前の席の柊君が、後ろを向いて話かけてきた。


「さっきの挨拶でも聞いていたかもしれんが、俺は柊矢桜だ。矢桜と呼んでくれ」

「ああ、矢桜。俺のことも智景でいいよ」

「それより、西小にいたんだな。全然知らなかったな。誰かが、保健室にずっといる、とかいう噂は聞いたことがあったが、他の学年だと思ってたよ」

「そうか。で、何かようか?」

「いや、同じ委員会だからな。あとは、確かイズナも体育委員だぞ」


 全然知らなかった。他のメンバーが誰かなんて、全く気にしていなかった。


「そうだったのか。気にしてなかったな」

「そうだろうと思ったぜ」

「ここの席、いいかしら」

「ん?いいぞ」


 誰かと思い、そちらを向くとイズナが、そこにいた。


「私のことはイズナでいいわよ。智景君、と呼んでもいいかしら?」

「『呼んでもいいかしら?』って、元からそう呼んでるだろ」

「フフ、そこの莫迦を騙そうと思っただけよ」


 そこの莫迦、と言いながら矢桜の方をイズナは見た。


「どういう事だ?」

「イズナとは、イギリスにいたときに、偶然知り合ったんだ。半年くらい前だな」

「そうだったわね。小学校を見学に来ていたあなたに、私が話かけたのよね。新しく日本人が入ると思ったら、まさかの小学校の見学だけだったなんて。ぬか喜びさせられたわね」

「勝手に喜んでただけだろ。俺は小学校なんて西小しか通ったことないよ。西小でも授業は一度も受けてなかったし、成績表はテスト以外の成績は、全部一番下だったけどな」

「まあ、貴方。元々、小学の成績が無いんだから、仕方ないんじゃないかしら。日本では元々の学校の成績を基に、成績をつけるらしいから。学校あったの8月までだったのだから、9月から小学に通えばよかったのに」

「そう言う繋がりだったんだな。それよりも、智景は何で小学校に行っていなかったんだ?」

「ああ‥‥飛び級で、大学いってたから」

「すげぇ!マジかよ!そうだ、智景。今日、いいとこに連れてってやるよ!イズナもあそこに集合な!」

「分かったわ」

「あそこ、って‥‥どこだ?」

「着いてからのお楽しみだ。今日、家に帰って飯食ったら、すぐに学校集合な。じゃあ、委員会の分担決めちゃうか」


 あそこ、というのが少し気になりはしたが、取り敢えず、元の目的を先に終わらせることにした。


「分担とは言っても、週1で体育倉庫を掃除すればいいだけだろ。分担いらなくないか?」

「それもそうだな」

「じゃあ、これで終わりかしらね」

「そうだな」


 委員会の役割なんて、本当にそれしかないのだ。分担など必要が無い。


「先生に伝えてくるわね」

「ああ、よろしく頼む」


 今日は、委員会を決めるまでで終わりだったらしい。

 委員会の役割が決まったところから、帰っていいと言われた。

 今の時間は11時過ぎたところだ。お昼には少し早い気もするが、家に帰るのにも2、30分はかかる。丁度いいくらいの時間になるかもしれない。


「智景。これ、俺の連絡先な。スマホ持ってんだったら入れといてくれ」

「わかった。ありがとう」

「イズナは先に向こうに行っているはずだから、あまり遅くなる時は連絡してくれな」

「ああ。学校に着いたときにも、一応連絡するよ」

「そうしてくれると助かるわ。じゃ、俺こっちだから。また後でな!」

「ああ、また」


 挨拶をし、一度別れ家へと帰った。

 20分ほどで家につき、カギを開け中へと入る。


 家には誰もいない。最後に僕以外が入ったのは、1ヶ月以上前だ。

 両親はこっちに戻ってきて、家を買い、家具を買い、生活に必要なものを一通りそろえきったところで、再び出張先へと向かった。

 今度の出張先は南アフリカ大陸南部にある、ウルグアイだそうだ。

 俺はあちこちに動き回るのが面倒になったので、こっちに残ることにした。


 冷蔵庫を開け、適当に食材を取り出し調理する。

 それなりに上手なつもりだ。かれこれ10年近く料理は続けているのだ。

 僕が小さい頃は家政婦もいたが、6つにもなるころにはいなくなっていた。

 料理や掃除など家事の全般を教えてくれた家政婦の皆には、本当に頭が上がらない。両親のことは尊敬しているが、人としては軽蔑している。

 人として‥‥というより、親としてあり得ないと思っている。

 僕は大人になって子供ができたとしても、絶対に彼ら両親のようにはならないと心に誓っている。


 料理を終え、昼食を食べ始めるころには12時に差し掛かろうとしていた。

 10分もかからずに食べ終わり、遊びに向かう準備をした。

 とは言っても、何を持っていけばいいのかも分からないので、財布とスマホをバッグに突っ込んで家を出た。


 学校の場所は、自転車を使えば10分もかからない位置にある。

 あまり遠くない学校を選んだのだ。やろうと思えば、中高一貫の学校の入試も受かったと思うが、もう大学は卒業してあるので、そこまで行きたいとも思わなかった。

 今日は入学式だったため、自転車には乗っていけなかったため、必要以上に時間がかかったのだ。


「行ってきます」


 誰もいない家に向かって、挨拶を残し学校へと向かった。

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