第59話

 ふみ白旗しらはたは、豆腐が置かれていたという教室を実際に見てみることにした。


 三年二組の教室の教卓には六角ろっかくが言った通り、クマのぬいぐるみにトマトジュースがかかった豆腐が添えられていた。


「うーん、実際に目の当たりにすると、何とも言えんシュールさがあるなァ」


「……オシャレな創作料理のように見えなくもないですけど」


 しかし二年三組の教室にあった豆腐には、トマトジュースはかけられていない。教卓の上にクマのぬいぐるみと白い豆腐が置いてあるだけだ。


「……六角さん、随分いい加減な証言やな。あの言い方やと、全部の豆腐にトマトジュースがかかってたみたいやないか」


「それにしても、ぬいぐるみと豆腐だけだとあまり事件っぽくないですね。ただのお供え物みたいというか……」


「……あ、わかったッ!!」


「白旗先輩、何かわかりました?」


「この倒れたクマのぬいぐるみとトマトジュースが付いた豆腐は『豆腐の角で頭打って死んでしまえ』っちゅう、慣用表現を現しとるんや!!」


「……えっと、もしかして今気がついたんですか?」


「……………………」

 黙る白旗。


「でも、それだと妙ですね。どうして二年三組の豆腐の方にはトマトジュースがかかってないのでしょうか?」


 白旗の言うとおり、これらが『豆腐の角で頭打って死んでしまえ』の慣用句を模しているとすれば、豆腐に血を想起させるトマトジュースをかけるのは自然だ。何故二年三組の教室の豆腐にはトマトジュースをかけなかったのか?


「……もしかしたら、これは何かの暗号なのかもしれへんな」


「……暗号?」


「犯行現場に少しずつ差分をつけることで、犯人が何らかのメッセージを残しているのだとしたらどうや?」


「……だとすると、最後の現場が重要な鍵になっているのかも」


 最後の現場、一年一組の教室には仰向けに倒されたクマのぬいぐるみと、何もかけられていない豆腐があった。

 ただし、豆腐は豆腐でもそれはだった。


「六角さんの言うてた色が違う豆腐て、玉子豆腐のことやったんかいな」


「……どうやらそうみたいですね」


 しかし、それがわかったとしても、ふみ香には何のことだかさっぱり理解できない。

 白旗の言うとおり、本当に何かの暗号なのだろうか?


 三つの教室で見つかった豆腐をまとめると、以下のとおりだ。


 ――三年二組。

 トマトジュースがかかった豆腐。


 ――二年三組。

 何もかかっていないプレーンな豆腐。


 ――一年一組。

 玉子豆腐。


 ふみ香たちは念の為、全ての教室を調べてみたが、クマのぬいぐるみと豆腐が見つかったのは三つの教室だけだった。

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